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プロローグ
その日は終日仕事に追われて、
すっかり遅くなってしまった。
終電ギリギリになってしまったが、
なんとか電車に間に合うことができて
本当に良かった…。
家に着いたらすぐに最後の準備をしなくては。
明日からのバリ旅行は2人で行く
初めてのプレ・ハネムーン。
私も康介も仕事が忙しくて
なかなか休みが取れないから
もしかしたら、これが
ハネムーンの代わりになってしまうかも。
それでも、楽しみだな…。
最寄駅から家までは徒歩で15分ほどだ。
だが、途中にある公園の中を抜ければ
もっと早く家に着くことができる。
早く家に着きたいし、そうしようかな…。
思えば、こんなことをしなければ良かった…。
この公園には
ほとんど外灯がない。
夜は人もいない闇に閉ざされたような
ひっそりとした空間が、なんとも気味が悪くて
いつもならば夜は決して通ることなどなかった
この公園を、気持ちが浮かれていたがために
今夜は通ってしまった。
外灯ひとつもない公園の中の道は
ほとんどよく見えなくて、
公園の先のコンビニの灯りを頼りに
走るしかなかった。
やっぱりちょっと怖いな…。
諦めて引き返そう。
そう思った時はもう遅かった。
いつの間にか後ろから迫ってきた男に
口と右腕をいきなり掴まれ、
草むらの中に引きずり込まれる。
悲鳴を上げようにも口を手で押さえられたまま、
地面に押し倒されて
男が馬乗りになってのしかかってきた。
暗がりでよく顔が見えないが、
男がこれから何をしようとしてるのかが、
恐怖と共に理解できた。
「俺といいこと…しようぜ、ねえちゃん」
ものすごい力でブラウスのボタンを引きちぎられた。
た、助けて〜〜〜!!!!
声にならない声が頭の中を駆け巡る。
野卑な笑いを浮かべた男が
覆いかぶさってきた…。
や、やめて~~~~~ !!!!!
その瞬間、
男は突然喉のあたりを押さえると
急にのけぞった。
え…???
そのまま後ろに倒れて男は動かなくなる。
いったい何が…
何が起きたの…????
倒れた男の前に
別の男が立っているのが見えた。
な、仲間…!?
更に恐怖が強くなる。
しかし、男は静かに言った。
「行け…」
「え…??」
「いいから、行くんだ」
低いが、どこか有無を言わせない声だった。
助けてくれる…の…???
震えが止まらなかったが
敗れたブラウスの胸を手で押さえて
なんとか起き上がることができた。
「ありがとうございます」
何とかそれだけを言って、走り出す。
恐ろしさが体の震えを増長させる。
あの人が助けてくれなかったら
体を汚された上に殺されたかもしれない…。
走る途中で思わず後ろを振り返ると、
その人はまだ立ち尽くしていた。
月明かりが彼の後ろ姿を照らし出す。
「え…あれは…何… ??」
男の背中から漆黒の羽根が
大きくせり出しているのが見えた…。
走りだした彼女の姿を男は静かに見送った。
亜麻色の髪と紺碧の瞳…。
人間と違う点はただひとつ。
それは背中から大きくせり出した
漆黒の羽根…。
男はひとつ身震いするように
頭をゆっくりと振ると、
そのまま、空に向かって羽根を大きく広げ、
空へと飛び立った。
大きな漆黒の羽根が1本抜けて
ゆっくりと地上に降りてくる…。
羽根の色は漆黒からゆっくりと白色へ変化し、
公園であおむけに倒れている
男の胸の上に落ちた。
鋭く掻き切られている男の喉元からは
赤黒い血がどくどくと流れて広がっていた…。
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