5人が本棚に入れています
本棚に追加
episode①-3 香保
背中の傷口に化膿止めの薬を塗り、
鎮痛剤を注射すると、
診察室のベッドで
ユノはそのまま眠りについた。
…なんだか不思議な人。
粗野な感じなのに、どこか暖かくて、
なのにこの人自身もどこか寂しい…。
それが抱きしめられた時、
ユノの胸の暖かさを通して伝わってくる気がした。
しっかりと閉じられたユノの長い睫毛を見ながら、
ユノもまた何か大きな事情を抱えているような
そんな気がしていた。
香保はユノにそっとブランケットをかけると
診察室を出た。
病院と母屋を繋ぐ廊下に差し掛かったところで、
いきなり香保は
後ろから誰かに羽交い絞めにされた。
「きゃあっ、誰か…」
声をあげようとしたところを
鼻と口を布でふさがれる。
…これはクロロフォルム…
遠のいてく意識…。
気を失った香保は
その男に連れ去られた。
…香保…???
鎮痛剤で朦朧としながらも 、
ユノは香保の悲鳴を聞いたような気がして
目を覚ました。
ベッドから起き上がり、診察室を出る。
廊下に香保のはいていたスリッパが片方
落ちていた。
あたりに漂う香保の気配と
別の人間の匂い…。
悪魔に魂を売るヤツが放つ
吐き気のする匂いがした。
香保…!!!
ユノは漆黒の翼を広げると、
壁をぶち抜くように
大空に向かって飛び出した。
雑居ビルの最上階。
気を失っている香保が
ソファに寝かされている。
「上玉だから、シャブ中にでもして
ソープに沈めとくか…」
気を失ってる香保を取り囲む男たち。
「その前に…やっとくか…」
下卑な笑みを浮かべながら
男の1人が香保の上に馬乗りになると、
香保のブラウスのボタンに手をかけた…。
突然事務所の窓が
激しい音と共に割れると、
何かが飛び込んでくる。
「何だ…!!ぎゃぁっ」
飛び込んできた何かに近づいた男の1人が
絶叫と共に前のめりに倒れる。
男の喉からは大量の血が吹き出していた。
すっくと立ち上がったその「何か」は
漆黒の羽根をゆっくりとしまうユノだった。
その瞳は紺碧から深紅へと変化している。
「…香保を返せ…」
「てめえ~~〜〜!!!!」
ナイフや鉄パイプを手に
次々と襲いかかる男たち。
その中を縫うようにユノの漆黒の羽根が
血飛沫と共に舞い上がり…。
おびただしい血だまりの中に
うめくように倒れる男たちの中を
ユノはゆっくり進むと、
ソファに寝かされている香保を抱き上げ、
再び割れた窓から羽ばたいた。
「あいつ…化け物か…?」
ユノの姿を見ながら
そのまま絶命する男たち…
香保が目を覚ますと、
ユノの腕の中だった。
香保を抱きあげたユノは
香保の家までの道をゆっくりと歩いていた。
「ユノ…??あたし…どうして…」
「怪我はないか?」
「ええ…。助けてくれたのね…」
自分は何かされたのだろうか…??
誰かに後ろから羽交い絞めにされて…。
考えただけでも
得体の知れない恐ろしさに体が震えた。
「寒いのか?」
ユノが香保を抱く腕に力をこめる。
「ううん…大丈夫」
この人の腕の中なら、きっと大丈夫だ…。
きっと…。
最初のコメントを投稿しよう!