episode②-1 ひろ

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episode②-1 ひろ

ジェイの襲撃を逃れ、 気配を消したまま、 ユノは大空を飛び続けた。 気配を消す… この術はジェイには使えない。 あいつから逃れるのに一番有効な術だ。 ただ… こうやって逃げ続けることに むなしさを感じる自分もいた。 …俺とジェイは 小さい頃からずっと一緒だった。 親の顔を知らない俺たちは それこそ兄弟同然に育ったし、 一族の中でも俺とジェイの腕は めきめきと上がっていた。 俺とはまったく正反対の性格ながら、 俺とジェイはウマが合うというか、 それこそ、あうんの呼吸で一緒に行動ができた。 体の一部なんじゃないかと思うほど…。 俺が一族を飛び出し、 一族の長(おさ)は、 追っ手として 迷わずジェイを選んだ。 あいつしか俺を倒せないから…。 俺にしかあいつを倒せないように。 飛ぶ高度を少し下げた。 ジェイの気配は感じない。 どうやら俺を見失ったようだ。 眼下に暗い1本道が見えた。 その道を必死で走る女の姿が見える。 少し後ろに… 女を追う男の姿。 男はあっという間に女に追いつくと 後ろから羽交い絞めにする。 「なあ…やり直そうって言ってんだ」 「もう別れたはずよ!!」 「俺は別れるなんて言ってないぜ」 突然、男は羽交い絞めにしていた女を 前に突き飛ばした。 勢いよく女は道に転がる。 男は転がった女に馬乗りになると、 高々とこぶしを振り上げた。 ユノは男の振り上げたこぶし目がけて 急降下した。 「うっっ!!!」 男が思わずこぶしを抑えてしゃがみこむ。 「こっちだ」 すばやく羽根をしまい、 顔を手でおさえている女に手を差し伸べる。 「あなたは…」 「早く」 女はユノの手を強く握り締めた。 ひんやりとした手の感触…。 そのまま女をぐいっと起こし、 抱きかかえると ユノはあっという間に走り出した。 「ひろ…どこだぁぁぁ~~!!!!」 こぶしから血を流しながらわめく男の声に 思わず女はユノの胸にしがみついた。 震えてるのか…??? 「大丈夫。あの男に渡したりしないから」 「ありがとう…」 弱々しい笑顔を見せた途端 そのまま彼女はユノの胸の中で気を失った。 これがひろとの出会いだった…。
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