一生隠したままにしておこうね

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尋幸の頭を洗い終えた美澄は次に背中を洗い始めた。小さく頼りなく真白な背中をタオルで擦りにかかる。 「痒いところない?」 「……」 やれやれ、まだご機嫌が悪いのか。美澄は溜息を吐きながら尋幸の脇の下に手を入れた。 「ひゃっ」 「ほらほら、前洗うから立った立った」 すると、尋幸は顔を背けた。 「いいよお…… 前は自分で洗うよぉ……」 「ほら、ダダこねないの」 美澄は尋幸を立たせてくるりと回転させた。二人は再びお互いに向き合う形となる。尋幸は慌てて両手で股間を隠した。 美澄は尋幸の胸をタオルで擦る。骨格模型の上に申し訳程度の筋肉と皮を貼り付けたような尋幸の裸、タオルで擦っているだけで間違って薄皮一枚を剥がし筋組織を露わにしてまいそうになるほどに儚くも弱く艶めかしい少年の裸がそこにはあった。 丸裸を晒していることを恥ずかしく考えているのか、尋幸は首を大きく背けていた。それにも関わらずに視線はチラチラと美澄の乳房に向いていた。 胸、腹、腕、足、一旦回転させての尻…… 美澄の手によって尋幸の体は隅々まで隈無く洗われていく。その間、美澄が考えていたことは「やっぱり、卓也さんとの裸とは違う」ということであった。 美澄が夫とする相手、卓也は実業団のラグビー選手故に筋骨隆々とした逞しい男であった。今どきはヴァージンロードをヴァージンで歩く女など希少種と呼べるぐらいに珍しい、美澄も卓也との付き合いは高校の頃からと長く、何度か体を重ねている。その逞しい体を前に「抱かれる」ことしか出来ずに、自分が主導権を握るように「抱く」ことはただの一度もなかった。正直なことを言うと、美澄は卓也に抱かれることは極めて苦痛であった。ギリシャ彫刻を思わせる逞しい胸板、そこに鬱蒼と茂る林のような胸毛、それに身を預けるだけで吐き気すら催すが「抱かれている」以上は耐えるしかない。丸太のような太い腕を腰に回されているだけでそのまま折られそうな気がし、怖く感じる。男性自身も錦蛇の頭を思わせ力強く鎌首を擡げた大きく太いもので、美澄にとってそれは怪物(モンスター)にしか思えないのであった。怪物(モンスター)を自らの体で受け入れるが、その大きさは彼女に身を裂かれるような苦痛を与えてしまい、快楽を得るとは言い難いものであった。 卓也との「不適合(あわ)ぬ夜」が頭の片隅に擡げる美澄。彼女は口を開いた。 「ほら、手で隠してないで。そこも洗うよ」
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