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全てが終わり、美澄は尋幸にシャワーを浴びさせた。その間中、尋幸は涙を流しつつ罪悪感に襲われながらも、先程までの快感が忘れられずに、心の中は困惑するばかりであった。尋幸の自己主張も雨上がりの萎んだ朝顔の花のように虚しく雫をぽたりぽたりと落としていた。
このことを尋幸が誰かに話せば美澄の人生は破滅だ。この凶行を許す者などこの世にいるはずがない。
次の行動は決まっていた。口止めである。
美澄は尋幸の両肩を軽く握った後、しっかりと目を合わせ、口を開いた。
「いい? 今、お風呂であったことは誰にも言っちゃ駄目だよ」
「え? え……? え?」
「このことが誰かに知られたらお母さんやお父さん、みんな悲しむの。あたしの旦那さんになる人だって悲しむ。親戚全員が悲しんで泣くことなの。だから絶対に誰にも言っちゃ駄目なの」
ああ、あたしは下衆だ。今の言葉は性犯罪者が子供を脅す常套句じゃないか。しかし、形振りは構っていられない。ここで誰かに知られることがあれば、あたしの人生は破滅だ。美澄は保身のために尋幸にきつく口止めをするのであった。
「あたしも、尋くんにしたことは誰にも言わないから。尋くんも誰にも言っちゃ駄目よ。いい?」
尋幸はコクリと頷いた。その顔は罪悪感に満ち満ちて暗いものだった。そして、口を開く。
「うちね、家族同士で隠しごとはしちゃ駄目って言われてるんだ……」
あたしだって、これから結婚する卓也さんと結婚する時の約束で「夫婦、いや、家族同士で隠しごとはしない」と決めている。しかし、最大級の隠しごとが今出来てしまった。美澄はそう思いながら人差し指を立ててシーのポーズをとった。
「あたしも今のことは一生の隠しごとにする。だから尋くんも一生の隠しごとにしておいてね。皆が悲しんで泣くの見たくないでしょ」
「うん…… 一生誰にも言わないよ……」
「大好き」
二人は軽い口づけを交わした後、風呂を後にした。お互いの両親に「長いお風呂だったのね」とからかわれたが、美澄は「尋くんが暴れるから、なかなか体洗わせてくれなくて」と、適当に誤魔化した。両親達はこれを聞いて笑い転げるのであった……
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