一生隠したままにしておこうね

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 数日後、美澄は嫁入りし卓也の妻となった。結婚式も盛大に催された。 その日の夜、美澄は初夜を迎えたのだが「抱かれる」ものであったために、満たされるものではなかった。卓也のことは愛しているが、抱かれる時ともなれば獣に抱かれるも同然、目を閉じ考えることは風呂場での尋幸とのことだった…… そして迎えた十月十日(とつきとおか)、二人の間に男児が生まれた。父親となった卓也が我が子を抱いた瞬間に訝しげな顔をした。その顔を見た美澄が出産を終えて疲れ横たわった身で尋ねる。 「どうしたの? 猿みたいで自分の子供だって思えない?」 「いや、頭の形がな…… うちの系統じゃないんだよ」 「頭の形?」 「うちの系統の男は特徴的な頭の形してるんだよ。後頭部がちょっと出っ張ってるような? 俺もそうだけど、親父もそうだし、爺さんも同じ形なんだ。曾祖父さんの写真みても同じだったんだ。ところが、この子は違う形なんだよな」 美澄はこの子は卓也の子ではないと言うことを察した。尋幸の子であると確信を得ていた。出産の痛みに耐えて朧げな意識の中で聞いた産婦人科医の「お父さんによく似てますねー」の言葉は父親に自分の子だと印象づけて問題(トラブル)を避けるための常套句だったか。 とにかく誤魔化なくては。出産を終えた疲れからくる眠気から体が一気に覚醒し、適当ながらに尤もらしい言い訳を瞬時に導き出す。 「あたしの血が強かっただけでしょ? ほら日本人同士だと優性遺伝とか劣性遺伝とかどっちが出るかとか曖昧になるって言うし」 「そういうもんか。うちの遺伝要素が絶たれたと考えるか。ま、俺と君の子だし、可愛いことにかわりはない」 助かった…… 美澄はホッと胸を撫で下ろすのであった。
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