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美澄と卓也は久しぶりに自室で眠りに就く卓美の姿を見て安堵した後、リビングのテーブルにてお互いに向き合うように座っていた。二人は疲れ切ったように力なく椅子に深く座りぐたりとしている。
卓也が徐に口を開いた。その口調は少し荒い。
「なぁ」
「なんですか」
「本当に、卓美が助かって良かったよ」
卓也の口調が優しいものに変わった。
「ええ……」
「尋幸くんには本当に感謝だ」
「一生、頭が上がりません」
「それにしても親族に天文学的な確率の適合者がいるなんて……」
「まさに奇跡です」
「なぁ、お前…… 俺に何か隠しごとしてないか?」
美澄の全身の血の気が引いた、だが、冷静を装う。さすがに天文学的確率の適合者が親戚にいるのは出来すぎた話だ。「もしかして」の可能性を疑われているのは明白だった。
虫のいい話かもしれないがあたしは卓也さんを愛している。それだけにあのように裏切ってしまったことは知られたくない。美澄は「隠しごと」を貫き通す決意を胸に秘め、凛とした声で言い放った。
「ええ、何もありません」と。
卓也はそれを信じることにして、自分の息子と妻をこれからも愛していこうと誓うのであった。確信こそないが疑念があるという「隠しごと」を秘めながら……
おわり
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