受難その②「センパイ・咲江さん」

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受難その②「センパイ・咲江さん」

僕は渋谷系女子高生向け雑誌『エッグフラワー』編集部に所属している、27歳のメガネ男子だ。 スタッフは僕以外は全員女子で…(泣) それでも最初は女子高生のトレンドと言われる スポットに取材に行って、そのレポを記事にする 仕事を担当していたのだが、 大学の文学部から大学院+研究職まで進み、 文字の研究をひたすらやってきた 僕の美しい日本語は 「堅い!!」「おもしろくない!!」 とことごとくダメ出しをくらい、 とうとう原稿の校正担当にまわされてしまった。 (トホホ…) そして今日は朝から  センパイ編集部員の咲江さん (35歳・花の独身)の書いた記事 「首都圏の最新ラブホ事情」の公正に 取り掛かっていた。 ラブホ…ラブホテル… この歳まで「ラブホ」という場所に 1度も足を踏み入れたことがない僕は まん丸いベッドや、見たこともない道具 (でもなんとなく使用方法はわかるような…) の写真に目をシロクロさせながら 原稿をチェックしていた。 「由野〜、できたあ?」 「あ、は、はい」 咲江さんが鼻歌交じりに近づいてきて… 立ち上がった僕の左尻をむにゅっと掴んだ。 「ひゃあっ!!」 「なにカエルが潰れたような声出してんの」 こ、これって絶対セクハラ…(泣) 「ふんふん…あ、ここはこのままでいいのよ」 咲江さんは原稿を読みながら、 僕の赤ペンチェックのある部分を指す。 「いかされる…じゃわかんないじゃん。 ここはイカされる…がいいの」 「そうなんですか…?」 「そ。カタカナ使う方が 絶頂感に達してる感じがするでしょ?」 …絶頂って…(赤面) 咲江さんは真っ赤になった僕の顔を見て ククク…と笑いながら 今度は2本指で僕の唇をキュッとはさんだ。 「かわいいよね〜由野は。今度さあ、 取材を兼ねてあたしとラブホ行こうか?」 至近距離に近づいてくる咲江さんの顔が… 大きな瞳がいたずらっ子のように くるくると輝いていて… さ、咲江さんとラブホに…??? そ、それって…??? 「えええええええ〜〜〜〜〜!!!!」 「あはははは〜由野おもしろ〜い!!」 咲江さんは絶叫する僕の今度は右尻を むにゅっと掴むと 「あんた、ホントにいい尻してるわ〜 今度じっくり見せてよね〜ククク…」 と立ち去った。 もう…毎回これなのだ。 咲江さんのセクハラとたび重なる言葉責めに 僕の心臓は毎回破壊されつつ、ある。 そんなこんなで、かなり厳しい残業を繰り返して 今回の校正もなんとか一段落した。 今日は久々に残業なしで帰れそうだ…(ホッ) あ、確か今日は他社だけど、新しい辞書の発売日だ。 書店に寄り道していこう〜(ウキウキ) 足取りも軽くエッグフラワー編集部を出た僕は 入口の横に立っていた咲江さんと 思わずぶつかりそうになった。 「うわっ…す、すみません!!」 あわてて離れようとした僕の胸倉を いきなり早紀江さんが掴んで引き寄せた。 「!!!!あ、あの…」 僕の胸に顔を埋めるような体勢のまま、 咲江さんはしばらく動かなかった。 …いや…かすかに肩を震わせていた…(驚) 「さ、咲江さん…???」 「ごめん…ちょっとこのままにしてて、由野」 いつも平気で僕の尻を掴む咲江さんが、 ごめん…って? それに、咲江さん、もしかして泣いてる…?? 僕は両手をどうしていいかわからず、 なんとなくバンザイの姿勢のまま、 咲江さんに胸を貸す格好になっていた。 「ごめん、由野…」 しばらくして顔を上げた咲江さんの目は 真っ赤になっていた。 「ど、どうしたんですか??」 咲江さんは突然ふにゃっと 泣き笑いのような表情になった。 「フラれたの!!4年も付き合ってたのにさ」 「え…」 「田舎に帰って結婚するんだってさ。 あたしじゃないんだよね、その相手」 「咲江さん…」 「由野お〜〜〜〜〜」 あああ…また僕の胸倉を掴む…(困) そのまま声を上げて泣き始めた咲江さんが 「肩くらい抱いてよ、由野!!」と 泣き声のまま言うのが、 ちょっとかわいいな…と思った。 しばらくして泣き止んだ咲江さんは突然、 「飲みに行くよ、由野!!!」 「えっ…あ、あの、今日は… (愛しの辞書ちゃんを…)」 「何?あ、ラブホの方がいいの?」 「ち、違いますよ!!」 「飲みに行かないと見せてもらうわよ、ここで」 咲江さんの手が僕の右尻をむんずと掴む。 せ、セクハラ〜〜〜〜〜〜(うえ〜〜〜〜〜ん)
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