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受難その③「同僚・乃利香」
「由野っちはさあ…」
僕の隣で自慢の明るい茶髪の髪をくるくると
指で巻きつけながら
ちょっと鼻にかかったような声で
同期の乃利香(25歳・独身)が話しかけてきた。
「何?」
「月に何回くらいエッチすんの?」
僕は思わず口に運んだスタバのソイラテを
吹き出しそうになった。
「えっ、エッチって…あの…」
「あれぇ?もしかして、由野っちって童貞なのぉ?」
「ち、違いますよ!!」←思わず丁寧語。
実はこう見えても僕は童貞では、ない…(照)
「あらぁ〜…カミングアウトしちゃったね〜〜〜」
ニヤリと笑う乃利香の顔を見た途端、
しまった…!!と気づいたが、もう遅い(泣)
「咲江さ〜ん!!あたしの勝ちですよぉ〜」
「やられたあ〜〜!!てっきり由野は
チェリーボーイかと思ったのになあ〜」
舌打ちしながら乃利香に紫色の小箱を渡しているのは
センパイ社員の咲江さん(35歳・独身)だ…。
「やったあ〜!!アナスイのトワレ、
欲しかったんですよね〜コレ」
僕の童貞の有無が今回の賭けのネタだったとは…!!
しかも商品はアナスイのトワレ…
(アナスイって何?)
またまた僕の純情なキャラは
今日も弄ばれつつ、ある。
「ねえねえ、いつ初体験だったのぉ?由野っち〜」
ニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む乃利香が
無性に憎たらしい。
「教えません!!」←また丁寧語
「あれれ〜顔赤くなってるし〜かわいい〜〜〜」
同期とはいえ、年下のくせに
乃利香は最初からタメ口だ。
仕事よりオシャレとグルメとオトコに夢中、と
自分でも豪語する乃利香は
その見てくれとは裏腹に一流大学出身の才媛だ。
原稿を書くスピードも早く、
どういうわけなのか、直しもほとんどない彼女は
ほとんど残業もすることなく定時で帰っていく。
(羨ましい…)
「彼氏?どうかなあ〜…
乃利香はプライベートはナゾだからね〜」
酒の席で咲江さんがそんなことを言ってた。
乃利香のアフターは、
彼氏とデートか、しょっちゅう変わる
ネイルのメンテナンスをしにサロンへ行くのか、
そんなところなんだろう。
世の中には僕とは真逆の、
要領良く人生をエンジョイしている人間が
確かに存在するのだ。
そして、ある日の帰り…
僕は書店で新発売の辞書(他社のもの)を買って
ウキウキしながら家路を急いでいた。
駅に向かうために商店街を抜けようとした僕は
通りの向かい側を歩く乃利香を見かけた。
声をかけようとしたら、
乃利香はその並びにある小さな建物に入っていった。
あれ…乃利香…だよね??
雑居ビルのようだが、
ネイルサロンやダイニングバーなどは
入っていないようだ。
…??…
そのまま僕はそのビルを眺めていると、
しばらくして乃利香が出てきた。
…あれ??なんかいつもと違う感じが…?
いつもの颯爽としたパンツスーツから
トレーナーとデニムにエプロン姿…。
ご自慢のストレートロングの髪は
ひとつに束ねられている。
そして…僕は思わず息を飲んだ。
乃利香は1人ではなかった。
乃利香の右腕には小さな女の子、
そして左手は男の子の手を引いていたのだ…。
口をあんぐりとあけたままの僕に気づくことなく
乃利香は2人の子供を連れて
どこかへ歩き出して行く。
ど、どうなってるのぉ〜〜〜???
目が点になっている僕に
ビルの3階の窓ガラスに貼られた文字が
飛び込んできた。
『キッズルームひまわり』
託児所???
乃利香はシングルマザーだったのか…?????
その翌日…
「え?昨日??」
僕は思い切って乃利香に聞いてみることにした。
「駅前の、その…ビル…」
ああ〜…という顔になった乃利香は
「ボランティア、してんの」
と笑った。
「ボランティア?」
「そ。あたしさあ、こう見えても
保育士の資格もってんのよ。」
「そうなんだ…」
「あそこは大学のセンパイが経営しててね、
時々手伝ってるんだ」
なんか…優しいんだな…
僕は意外な彼女の素顔を見た気がした。
感心している僕の顔を見た乃利香は
突然ニヤリと笑った。
「まさかさぁ…由野っちはあたしがタダで
ボランティアしてると思ってるの?」
「え…??」
「そのキッズルームの経営者って、あたしのセフレ。セフレってわかる?由野っち??」
…セフレって…あ、あの…その…セック…あわわわ…
「えええええええええ〜〜〜っ!!」
思わず絶叫した僕を見た乃利香は
あはははは〜と腹を抱えて笑い出した。
「今度も私の勝ちですね〜咲江さん!」
「く〜〜!また負けたわ〜。
意外といろいろ知ってんだ〜由野ってさ〜」
ま、また賭けの対象…!!!
僕の…僕のイメージはいったい…(泣)
…ちなみに今回の賭けの商品は…??
「ああ…ゴンチャのタピオカミルクティーだよ〜」
タピオカミルクティー…(号泣)
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