恋のお話①「僕の勘」

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恋のお話①「僕の勘」

僕はある出版社に勤める27歳のメガネ男子だ。 僕の夢は辞書を作ることなのだが、 大学院のゼミの教授の口利きで入った会社で 配属になったのは なぜか渋谷系女子高生のバイブル的雑誌の 編集部…(泣) しかも全員女子の部署の中、「白一点」として 日々奮闘している。 辞書ばかり愛してきた僕は 当然恋愛経験も少なく、 それでも何度か恋に落ちることはあったけれど 少しいい感じになってくると 毎回悪いクセが出てしまう。 (ぼ、僕的には「恋の勘」だと思ってるんだけど) 「この人はきっと僕のことが好きなんじゃないか…?」と先走ってしまい、 毎回撃沈を繰り返すうちに なんだか恋愛すること自体が怖くなってきて そのうち気持ちのほとんどは 辞書に注がれるようになってしまった。 やっぱり毎回傷つくのは本当なわけで… だから、デスクの奈美さんが 「今度辞書制作部に紹介してあげるから、 今はここで頑張れ、由野」の言葉だけが 僕の日常と気持ちを支えている…はずだった。 そんな僕に… 再び心を奪われてしまうひとが現れるとは 思いもよらなかった。 その人は 途方に暮れていた僕の前に突然現れたんだ… 辞書制作に携わることが夢である僕は 憧れの辞書制作部にどうしても行ってみたくなって ある日意を決して足を運んだのだが… 「忙しいんだ、部外者は立ち入り禁止!!」と 当然のごとく門前払いをくらい、 途方に暮れていた(泣) そんな僕に「どうしたんですか?」と 声をかけてきてくれたのが 辞書制作部の隣にある ライフスタイル雑誌「キナリ」制作部の あやさんだった。 僕は思わず必死に辞書制作部への思いを 初対面のあやさんに必死に説明した。 あやさんはていねいに僕の話を聞いてくれて、 ウザがるどころか、にっこりと笑うと、 こう言ってくれたんだ。 「由野くん、大丈夫よ。私が紹介してあげるから…」 ここで待っていてね… そう言ってあやさんは辞書制作部に入っていき 辞書制作部にいる同期に僕のことを紹介してくれて、 僕は憧れの辞書制作部の訪問を 許されることになった。 それからは あやさんの仲介のおかげで 僕は辞書制作部への出入りを 自由にさせてもらえることになり ことある事に足を運べるようになった。 優しいあやさんは 僕が辞書制作部に来る度に声をかけてくれて 話を聞いてくれたり、アドバイスをくれたりした。 畑違いの部署にいるのに あやさんの辞書制作に関する知識は相当なもので いつのまにか、僕は 辞書制作部に行く=あやさんと話せる これが唯一の楽しみになっていった。 あやさんも当然忙しい人でもあるから 僕に付き合えない時だってもちろんあるわけで、 そんな日は辞書制作部に行っても どこか味気なくて、なんだか寂しくて こっそりキナリ編集部を覗いてみたりしている自分に 僕は少なからず驚いていた。 「由野くん!! 来てたのね〜」 僕の姿を見つけて花のように ふんわりとした笑顔で駆け寄ってくれる あやさんに毎回ドキドキして、嬉しくなって、 そして…僕はいつしか いつものあの「悪いクセ」が出てきていた。 あやさんは… 僕のことを好きなんじゃないかな…。 だけど、とても聞く勇気がなかった。 撃沈する自分の姿を思うと、 おじけづいてしまっていた…。 そんなある日のこと… いつものように辞書制作部に足を運んだ時 「由野くん!!」とあやさんが 声をかけてきてくれた。 「ねえ由野くん、今晩空いてる?」 「あ…はい。大丈夫です」 「ご飯食べに行かない? 近くに美味しいスペインバルが出来たの」 「はい。行きたいです」 もっともっと、あやさんと話したい…!! そう思っていた僕は迷わずOKした。 あやさんが連れて行ってくれたのは パエリアが美味しいおしゃれなスペインバルだった。 お酒が弱い僕はサングリアを あやさんは赤ワインを頼んで 名物の魚介のパエリアやピンチョスなどを注文して いろんな話をした。 本当にあやさんは話を聞くのが上手で それでいて知識も豊富で、 僕はサングリア以上にあやさんの ほんわかとした雰囲気に 妙に酔っ払ってしまい… 禁断のセリフをとうとう口にしてしまった…!!! 「あやさん…」 「ん?なあに?由野くん」 「ぼ、僕のこと好きですか?」 あやさんは一瞬きょとんとした顔になった。 うわっ…し、しまった…(泣) またドン引きされちゃうよ〜〜〜〜 その瞬間、思いっきり顔を赤くしたあやさんは 信じられないことを口に、した。 「…はい…」 え…? …えええええええええ〜〜〜〜!!!! 鳩が豆鉄砲を食らったような顔の僕に あやさんははにかんだ笑顔のまま 僕の顔を両手で包むと 右の頬にチュッとキスしてくれて… あまりの嬉しさと幸せの絶頂に達した僕は なぜかそのまま気絶してしまい(トホホ…) びっくりしたあやさんと共に 救急車で運ばれるハメに… でも…メチャメチャ幸せだぁ…。
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