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2.暗殺者
それからとても色々あって…。
色々と言っても、父や母が実は裏社会の仕事をしていたり、それを知ってしまって生命の危機が訪れたり、母と父がそれきり蒸発(周りには亡くなったと言っている)してしまったり、仕方ないので暗殺者として生きていくことを勧められたりしただけだ。
僕の前世はもっと濃かったからこれくらいなんでもないよ!
そんな人生が十年続いてからまぁ、普通に暮らしていて、ゆっくりまったり暮らしていたのですが…。
今回のターゲットは数々の脅し、拷問、殺しを行ってきた極悪ヤクザだ。
「ぎゃ、ぎゃぁぁ!待て、殺さないでくれ!」
その懇願に僕はため息をつく。
「いや、無理ですって何回も言わせないでください。大人しく殺されてください。僕も暇じゃないんですよ。」
「ま、待ってくれ…。金ならいくらでもやるから…。」
「僕はお金目的で暗殺していないんですよ…。なんでターゲットは皆、僕をお金でつろうとするんですかね…。」
「ひ、ひぃぃぃ!」
そして僕はターゲットの額に拳銃を向け、撃つ。
ぱぁぁん!
そしてターゲットは帰らぬ人となった。
「清掃完了しました。」
僕はいつも通り暗殺を終え、無線機に問いかけると、いつもの男の司令官の声が聞こえてきたのだ。
『はぁーい、良くやりました。』
「はい。」
僕は頷き、手に持っていた拳銃をホルスターにしまった。
『じゃ、次の任務は、「日本国朧舞魔法高等学校」へ行き、そこの生徒会長のお父さん、理事長を暗殺してね。罪状は多数の殺人、暴行でーす。』
「了解。」
そして僕はいつも通りにその朧舞学校とやらへ向かおうとした。
しかし、
『あー、依頼者の言ってた罪状、確証がないからしばらく様子を見てから殺してね』
「は?」
僕は足を止めた。
『いや〜調べたんだけどね…。いまいちぱっとしなくてさ…。その…証拠、あるにはあるんだけど、あとから付け足された感じがしたり、しなかったり…?よく分かんないから実際に学校に通ってちょーだい!入学手続きはしてるから、明日、「天草霞月です」って言えば入れてもらえるからね!』
皆さんどう思いますか、こんな不甲斐ない上司を。
『いやぁ〜!それにしても、ガンマくん、君、魔法を全然使わないねぇ!うち、魔法を主とした暗殺やってるからどんどん方向性変わって行っちゃってるんだよなぁ。どうしてくれんのよ!』
「…なんでわざわざ魔力を使ってまでこんな弱いやつを殺さなきゃいけないんですか?」
ガンマとは僕のコードネームだ。
蒸発した父のコードネームだったらしい。
正式にはγと書くらしい。
そして僕の返事を聞き、司令官はため息をつく。
『もう…。そんなこと思うのはガンマくんだけだよ…。』
「そうですか?」
『そうだよ!全く…。魔法の才能が桁外れだから仲間に引き入れたのに…。魔法全然使わないし…。それに!君に暗殺をお願いしているのは全員、政府も手を焼いている悪いやつなんだよ。それを…魔法もなしにバンバンやっつけるなんて…。普通はありえないからねっ!』
「…………で?」
『あ、今怒ってる?』
「いえ。怒ってません。」
『ふぅーん。まぁいいや。じゃ、観察と暗殺、よろしく〜!』
ブツッ。
電話が一方的に切れた。
僕はため息を付き、
「仕方ないか…。」
そして僕は舌打ちをすると、アパートへ帰っていった。
「あ、霞月くん、おかえり。」
「佐藤さん。お疲れ様です。」
このアパートは 父と母と住んでいたアパートだ。
もちろん、僕の本性など知る由もない。
先ほど声をかけてきたのは、そのアパートの家主さんだ。
僕に良くしてくれている優しい人だ。
「今日もバイト?十歳なのに頑張ってるわねぇ。」
「いえいえ。仕方ありませんよ。亡くなってしまったので。うちの両親。」
「もう…。偉い子過ぎて涙が…。もう年ねぇ…。」
ホロホロと泣き始めた 家主さん。
「そんなことないですよ…。裏で駄目なことしてるかもしれませんよ。」
僕が冗談めかしてそう言う。
すると、
「いーえ、霞月くんに限ってそんなことしないわ!私、命賭けるわ!」
「か、賭けないで!」
ならあなたは死んでしまう!なぜなら僕は殺しをしてるから!
「と、とにかく。僕は十分やっていけてます。僕、明日から朧舞学園に転入するので時間は少し減るかもしれませんが。」
すると、家主さんは僕の手を握りしめると、
「学校行くのね!頑張って!」
と言うと、自分の部屋へ駆け寄り、
「じゃ、明日は早いんでしょ?おやすみ。」
「はい。おやすみなさい。」
その時だった。
僕の所属している暗殺組織、「紅の狂想曲」からメールが来た。
曰く、
ーーーー
明日の持ち物とかそういうの書いてあるよー!言いそびれたからね!
・弁当
・筆箱
・スマホ
・(一応)拳銃
・ 〃 予備の弾
・ 〃 ナイフ
よろしくね〜♪
ーーーー
らしい。
僕は目を細めると、ため息をつく。
「学校行ったことないから弁当箱持ってないからサンドウィッチでいいや。筆箱は…なんかの袋に入れればいいか。スマホは持ってるからいいとして…」
最後の3つ、バレたらお終いだよな。
気をつけないと……。
僕は肩を落とすと、
「あーぁ、面倒くさい。」
と呟く。
ーーーーーー
ーーーーーーー
朧舞学園一年8組にて。
ショートホームルームで私の担任がこんなことを言った。
「さて、明日はなんと、転校生が来ます!」
すると、女子はときめき、男子はニヤニヤ笑う。
「先生ー!男子ですかー?」
ある私の隣の女子が言った。
「そうだよ!かっこよかったよ〜!」
へえ。かっこいいのか。
でも、私はそんなことは関係ない。
だって、私の好きな人は別にいるから。
向こうは私のことを覚えていないかもしれない。
名前はガンマ。
父を殺してくれた、私の英雄。
私は彼の素顔を見てしまった。
しかし、彼は私を殺さなかった。
ただ一言、
「言ったら殺すよ。」
とだけ。
私を生かしてくれた。
彼は、私の命を二度も救ってくれたのだ。
あれほど、血に濡れた様子がかっこいいとは思ったことがなかった。
あの、透き通った黒い目は私の全てを浄化してくれたような気がして、とても優しくて。
もう一度、会いたい。
そしてお礼を言いたい。
あの時、父を殺してくれてありがとうって。
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