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今は昔のことである。
西の村に、山神様を崇める小さな村があった。
三方を大きな山に囲まれその裾野に村が広がり、川を挟んで一方には豊かな田畑があり、村人の生活を支えている。
その村には美しい娘と、それに比較されるように醜い娘がいた。
美しい娘の名は、おみよ。
醜い娘の名は、おたね。
今日もおたねは醜い事を理由に母親から仕事を押し付けられている。
「愚図のおたねはどこだいっ?」
「あい、ここにいます」
炊事場で食事の椀を片付けていたおたねが嗄れた声で返事をする。
「大きな声を出すんじゃないよ、耳が腐っちまう」
「あい、すいません」
「ほら、さっさと洗濯してきなっ」
「あい」
押し付けられる洗濯の山を抱えておたねは清らかな川へ向かう。川面に映る自分の醜い顔を隠すように、冷たい流れの中に洗濯とともに手首までとっぷりと浸した。
すると後からドスドスと足音がする。
「おい、おたね、じゃねえや醜女、お前の顔も洗濯したら、ちったあ綺麗になるんじゃねえのかい?」
そう言うのは悪童の飛助である。
飛助は言うや否やおたねの背中を蹴り、川に落とした。
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