ハクロー様の白い嫁

15/17
前へ
/17ページ
次へ
おみよが新一郎に押さえられている間におたねは白い着物を纏い、飛助の手で醜い顔を隠すようにたくさんの白粉を塗りたくられた。 それがおたねだとは誰も気付かないような白い娘が出来上がる。 白いおたねが祭壇に上がると、同時に、大きく響く遠吠えが聞こえた。 「なんじゃ? 山犬か?」 「まずいぞ、こんな所で襲われる訳にはいかん」 「早く山を下りよう」 下山しようとする新一郎と飛助の前に何か大きなものが、すとんと落ちた。 「うわっ」 「どこに行く(わっぱ)」 「う、うわあああ!!」 現れたのは、大きなクマほどもある、大きな白い狼であった。 「まっ、まさか、これがハクロー様か!?」 「いかにも、お前たちが白狼(ハクロー)と呼ぶは、この儂である」 腰の抜けた新一郎はじたばたと手足を動かすが、縫い付けられたようにその場から動く事が出来ないでいた。 飛助は大きなそれに魂でも抜かれたか、呆然と立ち尽くすばかりである。 ハクローは頼りない男二人などに見向きもせず、祭壇にいるおたねと、顔だけはまだ白いままのおみよを見比べていた。 「はて? 今宵は娘が二匹か? まあそれもよい」 ハクローは目の前の(ごちそう)によだれを垂らした。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加