ハクロー様の白い嫁

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ハクローが近寄ったのはおみよの方であった。 「お前にする」 「なんで?」 心の綺麗さで自分が選ばれるはずがないと思っていたが、その理由をハクローが語る。 「誰に対しても分け隔てなく接し、(うらや)む事も(おご)る事もないからだ」 「でもおたねちゃんだって」 「あやつは卑屈だ。それに羨む心がとても大きい。いつも周りを見て、いいな、いいな、と妬んでおるのがよく分かる」 「そんなこと……」 「あるんじゃ、おみよちゃん。おらはみんなが羨ましい。みんなと笑って、遊んで、みんなと一緒にあったけえ飯が食いてえんじゃ」 「と言う事だ。決まりだな」 「そうか……私が選ばれたならいい。ハクロー様の捧げものは私じゃ」 「おみよちゃん!!」 「ええんじゃ、おたねちゃん」 おみよの元に転びながらおたねが駆け寄る。 「ありがと、ごめんね、おたねちゃん」 それにおたねは涙をボロボロとこぼしながら首を強く横に振った。まるで幼な子が嫌嫌をするように。 「さあ、村の願いを聞き入れよう」 二人の涙など意に介す事なくハクローは淡々と告げる。 途端に、月は黒雲に隠され、空はゴロゴロと不穏な音を奏で始めた。 ポツリ、ポツリと降り始める滴に、おたねもおみよも天を仰いで恵みの雨を顔にそそぐ。 どろどろと流れ落ちる白粉に、いつもの素顔をお互いに晒して、ひしと抱き締め合った。 「おみよちゃん」 「おたねちゃん」 別れの抱擁が中々終わらない二人にハクローが、行くぞ、と声を出す。 「さよなら、おたねちゃん」 「嫌だ、おみよちゃん」 刹那、おたねの前を猛烈な風が吹き抜けた。かと思えば目の前にはすでにおみよはいなかった。 「おみよちゃん……」 風の流れて行った方向に視線をやるが、見える訳もない。 おみよのいないあの村で、この先どう生きていけば良いのかと、おたねは途方に暮れる。それこそもう生きている意味もない。だが、今ある命はおみよに助けられたもの……。 呆然としたまま、しばし立ち尽くすおたねの頬をつたう涙を隠すように雨がざあざあと降っていた。 〈了〉
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