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「でもこのまま僕が帰ったらまた死のうとするだろ? こっちの寝覚めが悪い。それに……。そうだ! 死ぬ前にやり残したこととかないのか? せめてそれをしてからでも遅くないんじゃないか」  自分のことを差し置いて何を言っているのだろう。自殺を決意した僕が彼女の自殺を止めているという現状がおかしかった。何という矛盾だろう。  女の子は黙り込んだ。それからすぐ立ち上がるとお尻についた砂を払って雑誌の束に再び登った。そしてブランコにくくりつけた紐を解き始めた。 「わかりました。死ぬのはもう少し後にします。そのかわり責任とってください」  少女は紐を束ねながら雑誌の台を降りた。 「責任って……。感謝されることはあっても責められる覚えはないぞ」 「せっかく覚悟が決まったのにあなたが余計なこと言うから決心が揺らいだんじゃないですか。それにあなたがいうようにやり残したこともいくつかありますし」  手を前に出して「携帯を貸してください」と彼女は言った。 「このご時世で携帯持ってないのか?」 「いいからごちゃごちゃ言わずに出してください。それともここで大声出してもいいんですよ? 夜の公園にうろつく男と制服の少女、他人が見たらどっちを信用するでしょうね」  女の子はニヤリと笑うと手のひらをずん、と前に出した。  僕は新手のカツアゲにでもあっているのだろうか。  もしそうなら、どこかに隠れている仲間が出てくるかもしれない。あまり刺激しない方がいい。そう判断してスマホを彼女の手のひらに置いた。
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