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 彼女はスマホを受け取ると傍に置いてあった通学カバンから自分のスマホを取り出した。二つのスマホをいじり始めてすぐに「ロック解除してください」とスマホを突きつけられた。言われた通りロックを解除して渡すと今度は数十秒ほどで返してくれた。 「あなたには私のやり残したことをするのを手伝ってもらいます」  女の子は自分のスマホをカバンにしまうと「では、また連絡します」と言って出口へと歩き出した。  それを僕は肩を掴んで呼び止めた。 「ちょっと待ってくれ! 一方的すぎないか。何なんだこれは新手のカツアゲか?」  女の子は振り返るとふうっと息を吐いて言った。 「一方的? 私はあなたの一方的な独りよがりの正義感のせいで地獄を生きなければならないんですよ。これくらい我慢してください。それからカツアゲではないので安心してください」  それにと彼女は続けた。 「カツアゲができるような人間なら自殺をしようなんて考えませんよ」  そう言うと彼女は「明日連絡するので絶対来てくださいね」と言い残し闇に消えていった。  僕はしばらくその場を動けなかった。今起こったことを頭の中で巻き戻し何回も再生した。何回も何回も思い返しているうちにこれは僕が作り上げた妄想なんじゃないかと思えてきた。そうだ、きっと妄想だ。心のどこかで死を恐怖する部分があったのだろう。それが見せた幻だ。そうに違いない。  今日は帰って寝よう。もう疲れた。  アパートに戻るとちょうど隣の部屋の住人が部屋から出てくるところだった。  僕より二十ばかり年上の加賀(かが)という名の男だ。いつもよれよれの服を着て辛気臭い表情をしている。たしか写真家をしていると言ってたっけ……。
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