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午後一時になる五分前に公園に到着した。園内はがらんとしており、ベンチに座っている制服の少女以外、人気がない。滑り台やブランコが日光を浴びながら暇そうにしている。
僕は、公園の隅に設置されたベンチに腰掛ける少女に声をかけた。
「僕を呼び出したのは、君か?」
僕の声に少女は顔を上げた。切り揃えられた髪が揺れる。
「約束の時間の五分前に来るなんて、天原さん、優秀じゃないですか」
「五分前行動は当たり前だ。君と違って僕は常識人だからな」
「私のどこが非常識なんですか。天原さんより先に来て待っていたのに」
少女が不満そうに言う。
命の恩人に難癖つけて呼び出すとことかじゃないの? と出かかった言葉を飲み込んだ。こんなところで言い争いをしている暇はないのだ。さっさと用件を済まして彼女から解放されないと。
「で、用件はなんなんだ? 悪いが僕は忙しいんだ」
少女は「せっかちですね」と息を吐いた。
「それでは本題を話します。どうぞ、掛けてください」彼女は右手で自分の隣を指した。
言われた通り、彼女の隣に座る。太陽に照らされた座面が熱い。
「天原さんはいじめにあった経験はありますか?」
「なんだ、藪から棒に」
「いいから、答えてください。あるんですか? ないんですか?」
そう詰め寄られて、小中学校時代のことが頭をよぎった。クラス全員からの無視。机への見るに耐えない落書き。思い出すだけで胃が潰れてしまいそうに痛む。
「……あるよ。小中学校時代、いじめられていた。だからってなんか問題あるか」
「いちいち突っかかってこないでください。話が進まないじゃないですか」
彼女の怒り口調に思わず、謝罪の言葉が出た。
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