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 僕は何度この言葉に苦しめられてきただろう。この言葉が発せられると、生徒たちは仲の良い友達のもとへと移動していく。もちろん僕のところには誰も来ない。  そして次々と二人組が出来ていくのを尻目に僕は一人取り残されていくのだ。クラスの人数が偶数のときはまだマシだ。同じようにあぶれたやつと組めば解決するからだ。問題は誰かが休んだりしてクラスの人数が奇数になったときだ。  相手を見つけられず立ち尽くす僕にクラスメイトたちはいやらしい笑みを浮かべ、好奇と嘲笑を混ぜた視線を浴びせた。その様子はさながら公開処刑のようだった。  そしてその公開処刑は教師の「じゃあ天原(あまはら)くんは先生と組みましょう」というとどめの言葉で完成するのだ。  それでも僕は負けなかった。特別な人間は、その「特別さ」ゆえ周りに馴染めないものだ。そういった類の話は偉人たちのエピソードでよく聞くじゃないか。この辛さも大人になればお釣りがくるほどになるはずだ。そう自分に言い聞かせ耐えつづけた。    そんな日々が続き、僕は六年生になった。卒業まであと半年かそこらといったある日、それは起こった。  その日、僕はいつも通り登校した。すると教室の前の廊下に机が一つ置かれていた。なんだろうと不思議に思ったが、その謎はすぐに解けることとなった。  僕が教室に入るとクラスの喧騒が一瞬止み、クラスメイトの視線がこちらを向いた。あの好奇と嘲笑が混じった視線だ。背中を嫌な汗が伝った。何かがおかしい。そしてすぐ僕は異変に気がついた。僕の席がなくなっているということに。
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