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むかしむかし、仲の良い家族がおりました。家族は父と母、それと今年で九歳になるメアリという少女が一人。
とある休日、メアリ一家は近くの森林へとピクニックにやってきました。
木々の隙間から零れる暖かな木漏れ日の下にシートを敷き、その上にサンドイッチや果物を並べ、談笑しもって暫し団欒の時間を過ごしました。
やがてメアリはじっとしている事に飽きがきて、一人遊び回ることにしました。
両親はとても心配しましたが結局、あまり遠くまではいかないという約束を結び、少女は一人パタパタと森の中を駆けていきました。
メアリが森の奥へ進んでいくと、不意に足を滑らせ、転んでしまいました。
メアリが地面を見ると、個体と液体の狭間のような沼が彼女の体をすっかり包んでいました。ぬかるんで上手く立ち上がれません、もがいてもどんどんと沼の奥へと体が引きずり込まれていきます。
メアリは助けてパパ、ママと大きな声で叫びました。声は木々を反響して森の中を木霊しましたが、助けは来ません。そうしている間にも少女の体は沼の奥底へと沈んでいきます。
メアリは悲鳴を上げました。逃れようのない恐怖に目を瞑り、力の限りもがきましたが、やがて体全体が冷たい沼の泥に覆われ、少女はピクリとも動かなくなってしまったのです。
彼女の意識は暗闇に閉ざされてしまいました。可哀想なメアリ、沼に飲まれた彼女が目を覚ます事はもう二度と無いのです。
日が山の向こうに消えかけ、空が赤から黒へ移り変わる頃、メアリは沼の縁意識を取り戻しました。
首を傾けると、心配そうに娘の顔を覗く両親の姿がありました。2人曰くどうやら帰ってこない娘を心配して探しに来たらしいのです。
メアリは沼の縁で眠っていたらしく、耳や鼻の中にこそ泥が詰まっていましたが、意識ははっきりとしていて記憶もちゃんとあります。勿論、足も。
良かった、生きてるんだ。メアリは深く安心しました。同時に自身の幸運を神に感謝し、それから両親に少し叱られ、三人でピクニックの荷物を片して帰路に着く事にしました。
数日後、その沼から首から上の無い死体が発見されたのですが、幸せなメアリ一家にはあまり関係の無い朝のニュースでした。メアリはテレビの電源を切り、朝食のパンを一口齧りましたとさ。
ある日突然、意識や記憶、外見まで完璧にコピーされた自分がもう一人現れたなら、それは一体誰なのでしょう。
もしもメアリが沼の泥に沈んでいく最中、目を開けていたなら自分にそっくりな泥人形が形を成していくその形相を目の当たりにしていた事でしょう。
そして、泥人形が口を大きく開け自分の脳みそを頭から齧りつく、その瞬間を。
彼の名はスワンプマン、或いはスワンプガール。
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