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続 山手マングース4
「……玉城……聞こえてるか」
もぞつく感触が尻を這う。
悩ましく衣擦れの音立つ中、生理的嫌悪感と不快感を必死にこらえて囁く。
「ヤツだ」
『釣れましたか。ではしばらくそのままで』
「はあっ!?」
『痴漢は現行犯でしか成立しない犯罪です。ぎりぎりまでひきつけて証拠を掴んでください』
むちゃくちゃだ。
「じゃあ耐えろってのか?話が違うじゃねえか、なにかあったらすぐ助けに来るって……―っひ、い!?」
ざわりと背中が総毛立つ。
羽生はノーマルだ。
男にケツをさわられ悦ぶ趣味など誓ってない。
だからといって満足に身も捻れない状況下でできる抵抗は限度があり、度を越した悪戯を働く手をはねのけようと精一杯肩肘突っ張ったところで神経を逆なでする失笑が返る始末。
「くそっ……!」
舌打ちひとつ、恐怖心と生理的嫌悪をねじ伏せ乗り切り反撃にでる。
やられっぱなしで終わっちゃ山手の羽生の名が廃る。
自ら望んで名乗り出たわけじゃないが一度引き受けたのは事実、こうなったら徹底的に……
痴漢ごときに敗北してなるものかとプライドに火がつく。
体をずらし執拗につきまとう手から逃げようと試みるも、邪険にされればされるほど燃えるとばかり次第に大胆さを増し、ついにはぴったりと背中にくっついてしまう。
危険な体勢だ。
一つ間違えば手遅れになる。
現に羽生の太股には固く柔らかく熱い膨らみがぐいぐい押しつけられ、目で確かめるまでもなくおそらくそれは勃起した股間で、こんなにヤる気満々な状態でさわるだけですむとは思えない。
ツラを一目見たいと欲求が騒ぐ。
が、振り向くのは体勢的にむずかしい。
「……野郎に痴漢なんて悪趣味……」
「泣きぼくろがセクシーだね。もっと抵抗してよお兄さん」
なんですと?
女を酔わせる甘くセクシーな声。
声の主は若い。推定二十代前半か?学生っぽい。
無防備な耳朶に湿った吐息が絡みつき、気持ち悪さに背筋が強張る。
「あっちいけよ……!」
耳朶は弱い。
むき出しの急所をあんまり刺激してくれるな。
「可愛いお尻が無防備だよ。さわってくれって誘ってる」
ひいっ、声にならない悲鳴をやっとの思いで飲み込む。
電車の中で騒ぐのはまずい、余計な注目を買う。
耳朶から首筋にかけ、若者の吐息が触れた範囲に鳥肌が立つ。
迫り来る貞操の危機に平常心がぐらつき、胸ポケットの通信機に噛みつかんばかりに怒鳴る。
「玉城、玉城さん、聞こえてますか玉城さん応答どうぞ!」
小声で叫ぶという器用な真似がすっかり達者になった羽生である。
応答はない。
電波の調子が悪いのか?
通信機の向こうの男に何度呼びかけても沈黙が返るばかりで役に立たない。
話が違うじゃねえか、危なくなったらすぐ助けにくるって約束したのはだれだ、刑事が嘘ついていいのかよ、ああそうか嘘つきは痴漢の始まりか……
『私は刑事ですよ?信用してください』
一瞬でも信用しちまった俺が馬鹿だった。
所詮はハブとマングース、喰うか喰われるかの間に信頼も友情もない。
気前良くスーツをくれて一瞬でもこいつひょっとしたらいいヤツかもなんてほだされてしまった貧乏性な自分が恨めしい。
オカマにモテやすい上に痴漢に狙われやすい二重苦の体質を呪う。
脳裏に思い描いた食えない顔に百通りの罵倒をぶつけてもまだ怒りがおさまらず、役立たずの通信機をもぎり捨てんとして泡を食う。
「!ちょ、やめ」
足の間に立て膝が割りこんでくる。
まずい。
次なる展開を予想しさっと顔が蒼ざめる。
「―んんっ、んっ、く」
一回侵入を許してしまったら拒む術はない。
羽生の足をこじ開けて挟まった膝は、意地悪く律動を刻んで股間を刺激してくる。
唇を噛んで快感の呻きを殺す。電車の中で喘いでしまったら男として終わりだ。
汗ばむ手で吊り革を掴み、縋り、股間のふくらみを円を描くようにぐりぐり圧迫したかとおもいきや上下に押してくる膝の責めを上擦る息で耐え忍ぶ。
畜生、どこで油売ってるんだ玉城。
てめえが引っ張り込んだんだから責任とって早く助けにこい。
想像の中ですかした顔をおもいっきりぶん殴って溜飲を下げるも、現実の羽生は絶体絶命危機一髪のピンチのまま、膝でぐりぐりといじめられて自分の意志を裏切って固くなりつつある股間に絶望する。
「固くなってきたね。ぐりぐりされるのが好きなんだ。いやらしいなあ……」
俯き加減の顔が上気しつつあるのを認めた痴漢は、ますます自信をつけ勃起し始めた股間を強弱自在に膝で按摩する。
腰がかくんとおちる。
耳朶まで赤く染まる。
噛み締めた唇からは熱く湿った息が零れ、吊り革を握った腕ががくがく震える。
『どうしました羽生さん』
「!―おま、え……なんで答えなかったんだよ」
『すいません、電波の調子が悪くて……声の調子がおかしいですが』
通信が復活し、大嫌いな天敵の声がおっとり聞こえてくるや安堵のあまり泣きが入る。
途切れ途切れに聞こえてくる玉城の声にしゃにむにしがみつく。
「さっさと助けに来い……!」
通信アウト。
というか、勝手に切れやがった。また電波障害?
快感と恥辱に抗う羽生の姿に次第に興奮してきたようで、うなじにあたる息が危険な感じに浅くなりつつある。
「……っ………ふ……」
何をやってる山手のハブ。
威勢いいのは口だけか。
痴漢ごときに好き勝手されてどうする。
玉城の到着を待つまでのあいだ何もしないで手をこまねいてるのか?
その右手は飾りか?
スリ師の本懐を遂げてみろ。
自らを挑発し、苦しい体勢から無理して振り向いてみれば後ろにいたのは学生風の若者。
涙目で睨まれても怖じるどころか爽やかに微笑み返し、あまつさえこんなことを言い放つ。
「そそるね、その顔。もっと泣かせてみたいなあ」
ズボンの後ろ、隠れた窄まりのあたりに異物の感触。
「!?なっ………」
愕然とする羽生。
若者が扇情的に唇をなめる。
羽生の位置と体勢からでは見えないが、尻に何か球状を連ねた異物が押し付けられているのは感触でわかる。
「アナルパールは初体験かな」
するりと前に手が回る。
抵抗むなしくベルトを抜かれズボンをずりおろされる。
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