その29 『家族になろうよ!』

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その29 『家族になろうよ!』

 ユカオナの村では、それなりに被害が出ていた。  吹き飛ばされてきた岩が直撃し破壊された家。  小石が降り注ぎ穴だらけになった作物。  怪我をした人もいた。  不幸中の幸いというべきか、死人はいなかったようである。 「ホンッッッットサーセン!」  山から戻り、村の被害を確認した倫は、台車の上で拙くも土下座を繰り返した。 「い、いやいや。小鬼どもを倒してくれたんならそれでええんだども……あれ、あんたたちがやったんかァ!?」 「えぇ。まぁ。ニンフの力ってやつです」 「はぇ~、おったまげたなぁ……。そったら力あんなら、魔物なんざ一網打尽じゃねか?」 「えぇ、そうですね……」  実際、どうなのだろうか。  四天王ジオドでさえ一発だけ聖子を注入した状態でも斃すことができたのだ。  今後あれに耐えるような敵が出てくるとは考えにくい。もしかしたら、もうゲームクリアなのかもしれない。 (なんとかして魔王の居場所を突き止めて、10発聖子を注入したセレスに拠点ごと消し飛ばしてもらう。それで終わりにできるんじゃ?)  体がこんな状態になった時はそれはもう絶望したものだったが、今の倫はかなり前向きになれている。  ウェスタは絶対に自分を見捨てないということを知ることができた。セレスという心強いニンフも味方にでき、このユカオナの村では新たにマインというニンフとも出会えた。  その上もしかしたらセレスは魔王すら一撃で倒せるかもしれないのだ。 (いける……俺、いけるぞ……!?)  と考えていると、村人たちの感謝と困惑の入り混じった視線に気づいた。 「あ……とりあえず小鬼の脅威はもうなくなったと思ってもらっていいです。ただこの度はホントにすみませんでした。ほんのお詫びですが、今日明日くらいはゴミの片づけとか家の修繕とか手伝っていきますので」 「そ、そうかい? 悪いねぇ……」  少しホッとしながら、村人たちは顔を見合わせた。  → * → * → * → * → * → * →  その夜。  用意してもらった部屋で、一仕事終えたニンフたちは疲労困憊といった様子でぐでーっと座り込んだ。 「つ、疲れました……セレスさん、大丈夫ですかぁ?」 「……動けない……」 「ホント、疲れたッスよぉ~! もうヘトヘトッス!」 「悪いね、マインにまで手伝ってもらって」 「いえいえ! あたし元気だけがとりえッスから! それにせっかくいただいたこのニンフの力……使わなきゃもったいないっしょ!」  そうだ。数人がかりで運ぶような倒れた柱や岩をマインは一人でひょいひょいと運んで片してくれた。 「ホントに助かったよ、ありがとうね」 「へへ~、そんな面と向かってお礼言われると照れるッスね~!」 「そう? 普通じゃない?」 「いえいえ、ウチのおかんなんてやって当然、やらなきゃゲンコツが飛ぶって人間ッスから!」 「ははは、そうなんだ」 「そうなんッスよぉ~」 「でもそのおかげでマインがこんなにいい子に育ったんだとすれば、その教育にも感謝しなきゃなのかな?」 「いい子なんて! あははぁ、勇者様、お上手ッスねぇ~! もぉ~!」  マインは上機嫌でバシバシと床を叩く。  反対に、ウェスタとセレスは少し面白くない顔をしていた。 「……ウェスタ、セレス」 「あっ、はいっ!」  ここで一つ、ちゃんと言っておかねばなるまい。でなければ今後に差し支える。 「……反省会だ」 「……!」 「お前ら、ちょっと仲があまりよろしくないよなぁ? お互い譲れない役割があるからとか、存在意義がかかってるからとかいろいろ思ってることがあるかもしれないが……しかし今日、こういうことになってしまった以上はもう見過ごせない」 「は……はい……」  ウェスタはキノコを食って巨大化するおっさんがダメージを喰らったときのように縮こまった。  今日はあわや大事な大事なニンフが死ぬところだったのだ。その失態たるや。  セレスも同様だ。ウェスタへの対抗心を燃やすあまり、何の躊躇もなく山を吹き飛ばしてしまった。あわや勇者一行がその場で全滅するところだった。こうして村にも多大な被害を及ぼしている。  恐縮する彼女たちを見渡しながら、倫は続ける。 「今お前たちが何を考えているかわかるぞ。でも違う、そうじゃない。誰が一番役に立つとか、足手まといになるとか存在意義がないとか、そんなことを考えるのはもうやめよう」 「……と、いいますと?」  きょとんとする二人。 「確かに俺たちは巫女と勇者とニンフという利害関係でつながった人間たちかもしれない……でももう何日も寝食を共にして苦楽を共にして、命の危機も乗り越えてきたじゃないか。もう家族といってもいいんじゃないか?」 「か……家族?」 「そう、家族。俺たちは家族だ。家族は"あいつは役に立たない要らない奴だ"なんて言わないだろ? 家族は支え合うものだ。ウェスタに戦う力がないならセレスが守ってやればいい。セレスが人付き合いが苦手ならウェスタが助けてやればいい」 「ちなみに俺は何にもできないけど、だからって切り捨てないでくれよ。家族だからな。人付き合いはウェスタに助けてほしいし戦闘はセレスに助けてほしい。こういうダメダメな奴がいても無償の愛を注ぐのが家族ってもんだ!」 「だから、やたら張り合って周りが見えなくなるのはもうおしまい! これからはみんなで協力して、仲良く、楽しくやっていこう!」 (よっしゃ、決まった!)  完璧だ。まるでリーダーではないか? 人を率いた経験など皆無な倫が、完璧なまでにケンカの仲裁をしてみせた。実はみんなが片づけに奔走している間、今夜こう言ってビシッと締めてみせようとずっと考えていたのだ。内心フフンと得意になる。  ――が。 「か……家族……ですか? じゃあ、私、お嫁さん役で……」 「……ん?」  ウェスタは、ポッと頬を赤らめて言った。 「……では、私は便器で……」 「……んんん? ちょっと待て。家族って言ってるよな。なんで俺の家族にモノがいるんだ? てか、便器ってなんだよ!」 「じ、じゃあ私はお布団になります! 毎夜リンくんを温めてあげられるように……!」 「おぉーい!? だからなんで俺の家族はモノばっかりなんだぁ!? てか、話聞いてた? 誰が何役とかじゃないんだよ、お互い支え合うものだっていうことがだなぁ……」 「あっ、じゃああたし妹になりまーす!」  とうとうマインも乗ってきた。 「あぁマイン、お前まで……でも妹ならまだマシかぁ……おいお前ら、この中でまともなのはマインだけか?」 「!! じ、じゃあ私も妹になります!」 「私も……」 「あはははは! 全員妹になっちゃいましたね!」 「……」 (もうどうにでもな~れっ!)  倫は早々に投げ出した。
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