3代目の野望、4代目の予言

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3代目の野望、4代目の予言

3代目の企て、4代目の予言 2代目の献身的な庇護の元、3代目はすくすくと成長した。彼もまた特別な技能を持ったアリで、その才能を存分に発揮して一族のための壮大な計画を練った。彼は父と生きて会うことのなかった初代を称えた神殿の建設を計画した。それは二匹のアリが暮らす巣には大きすぎる建造物で、計画では、約束の領土を余すことなく活用して創られる。 2代目が亡くなり、4代目が生まれた。4代目は記録することに長けていた。3代目は4代目のサポートを得て、どのアリにも理解される壮大な神殿の設計図を書き上げた。 ところで、4代目の記述は過去と現在の歴史に収まらない。彼はアリたちの未来をも記した。4代目の予言によれば、神殿の完成は39代目ないしは41代目になるという。  13代目は柱を削りだす作業を止めてひとりごちた。 「あいつ、いつまで何やっているんだ。外に長く居るのは危険だぞ。」 14代目はすっかり成長し、建築や歴史を教わる一人前になっていた。14代目は最初の頃こそ熱心に父親を真似して習っていたが、近頃は作業を途中でほっぽりだしては何処かへ行ってしまう。柱を作る時に出た瓦礫はすっかり山積みになっていて、これを運び出して捨てるのは息子の役目だが、出て行ったきり一向に戻ってくる様子がない。 「しょうがない奴だな、まったく。」 息子は、反抗期を迎えている。 アリである我々は、生涯を休むことなくひとり働く。仕事が称賛を浴びる事も、疲労困ぱいを慰められる事も望めない。そして、孤独で危険な作業は死ぬまで続く。自分も若い頃、父に反抗して不貞腐れていた時期もあった。ちょうど今の14代目のように、生きることの意味を見出せずにいた。 再びため息が漏れた。 神殿を造り続ける意義や平和の意味を、今の14代目が理解するのはきっと難しい。 初代が平和を勝ち得た記憶は遥かに遠い。他の虫たちとの闘争を、14代目は目にしたことさえない。父親である自分だって、弱肉強食の現場は遠目で見たことがあるだけだ。  13代目は身震いをしてから、すぐに柱を作る作業に戻った。息子が建築を嫌厭するのは、いつも焦って頑張りが過ぎる自分のせいかもしれない。13代目には急き立てられる理由があった。だから、自分を酷使してまで無理に作業にあたるのだ。 初代 偉大なる父 我らが初代!主と共にあり 2代目 奇跡の子 初代の建国を献身的に支え守る 3代目 授かり子 建国の礎を作る 4代目 記述を司る 預言者  … … 12代目 強靭な顎 巣の大枠は彼により掘り出される 13代目 分岐点 危機にあうが、柱の完成により断絶は回避される 14代目 匠 13代目の作った柱に、一族のレリーフを刻む 15代目 自由の子 多種族と交流により一族の活躍を世に知らしむ ‥ 39代目もしくは41代目 この代をもって神殿は完成する これらは、4代目の予言とされる。 この予言を思い出すたびに13代目の胃はキリキリと痛む。迫りくる危機とはなんだろう。柱の建設は間に合うのだろうか?自分は、先祖の努力を無にして一族を滅ぼしうる存在なのだろうか。 確かに父12代目は、強靭な顎を持つアリだった。彼は大きくて力持ちで、予言の通り巣の広大な空間の大部分は彼が掘った。この予言が正しければ、自分の代で危機的な何かが起こる筈である。 13代目は不安を振り払うように、決まり文句を口ずさみ自身を鼓舞した。 「主は奇跡をもたらした。我々の一族は、奇跡のアリ。偉大なる初代。幸いなる一族!我々は甘美なる平和とともにある!」 初代は偉大だった。続くご先祖さまも、そして父も立派だった。だからこそ、平凡である自分や、そしておそらく息子も、日々の暮らしに希望を見出すことに難儀する。それに、毎日つくるこの巣だって、生きて神殿の完成を見ることはない。 もっとも、今の13代目に迷いはなかった。 そう思えるようになったのは、いつからだろう? 父12代目を失ってから? 14代目が生まれてから? それとも、自分にはもう迷う時間のないことに気づいてからだろうか? 14代目は岩の陰で外の世界を眺めていた。この場所はいい風が吹いている。目の前にある砂山は、自分が巣から運び出した砂でできている。 毎日同じ作業の繰り返しで、終わりが見えずにしんどい。14代目は自分の体を舐めながら、賑やかな虫たちの声を聞き入るフリをして、手伝いをサボっていた。 巣の外はいつだって賑やかだ。土の中とは聞こえてくるものが違う。 バッタが一匹、アリに興味を示して近づいてきた。 「君かい、この岩の下に住む奇妙なアリというのは?」 14代目はビックリした。自分たちのことを知る存在は外にもいるのだ。 「アリのくせに一匹で巣を作るんだって?君、変わっているよな。向こうの切り株の巣のアリなんて、数え切れないくらいの大家族でコロニーを作っているのに。」 バッタに声をかけられて、14代目は13代目の話を思い起こす。 (おお、偉大なる初代!主とともにある奇跡のアリ) 初代は、辺り一帯の虫たち全てと交渉をして、サンクチュアリを創ったという。 (父なる初代!神殿とともに、さらに素晴らしい一族の父!) 「そうさ。父と僕との二匹だけで暮らしている。二匹でもちゃんとした巣を作るよ。僕はアリだからね。」 「ふーん。」 バッタは生返事をする。 14代目はバッタの無関心がちょっと悔しくなって、話し続けた。 「コロニーに何百家族がいたって、俺たちの作る巣には敵わないよ。まだ作り途中で君を招待できないのが残念だよ。なんたって、君が羽を広げてジャンプしても天井につかないくらい巨大な神殿があるんだから。 「地下の神殿とやらにお邪魔するのは、遠慮しておくよ。僕は結婚相手を見つけるのに忙しいんだ。」 バッタが言う。14代目はそもそも結婚と言うものを知らないから、返答に困った。 「メスを探しているってこと?」 14代目が尋ねる。 バッタの顔が「当たり前じゃん。」と言っている。 「メスって恐ろしい生き物なんだろう?」 アリは言った。
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