アリの結婚とは

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巣に戻ると、父は最後の柱を削り出しているところだった。どうやら柱のアーチをつくろうと、何度も何度も天辺から落下したらしい。腰の動きはぎこちなく、いつの間にか脚も引きずっている。 自分のことを心配した息子に13代目は言った。 「もうすぐ柱が完成する。だから、それまでは私の隣にいてくれ。私の世話は必要はない。柱にレリーフを彫ってくれ。予言には(14代目は匠)とある。お前には彫刻の才があるんだ。レリーフを彫るのはお前に与えられた仕事。一緒に神殿を創るんだ。」 14代目は13代目の背を見つめる。父は歳をとった。筋肉は柔軟を失い、反応は鈍くなり、気のせいか少し小さくなった。それでも、作業の手を休めようとせずに柱を作り続けている。 神殿づくりに携わることができる、それ自体が幸せ。敵に襲われることも仲間の食料にされることもない。ここは生き物のサンクチュアリ。自分たちで勝ち得た聖域。 14代目は、柱を見上げて考えた。削った小石が落ちるたび、こだまはいそがしく立ちのぼる。 きっと、他のアリたちも。 仲間との軋轢をくぐり抜けながら、新しい世代に幸運を託して賭けにで続けることも。命を一滴も無駄にしないように、他のものに自分の命を分け与えることも。我々と同じくらい、幸運なことに違いない。 気付けば日は傾いていた。ヒバリはさえずり足りなかったらしい。再び空へ飛んでいった。 (それで、13代目の危機は去ったの?アリの子は女王に求婚したの?) ヒバリに聞きそびれたけれど、そんなの野暮な質問だ。 私は、このヒバリの話が15代目のアリから聞いたものだったことを思い出した。
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