32 痛いこと

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 バスルームに連れていかれ、血の付いたバスローブを剥がされる。 「お前、発育悪いな。何歳だ」  と聞きながら、男は指でわたしの顎を上向かせた。 「あーあ、これはけっこうひどいな」  と、首の傷跡を見て呟く。 「本当の年は分からない……花野さんは14か15くらいじゃないかって言っていたけど」 「ふうん」  シャーっと無造作にシャワーを浴びせながら、男はさらに聞いてくる。 「あいつらに何かされたか」 「何かって?」 「だから……あー、えっと、ほかに傷は? どこかに痛みはあるか?」 「ううん、無い」  シャワーを止め、じろじろと値踏みするようにわたしの体をみつめると、男は眉をしかめた。 「本当にふゆ様が、こんなガキを抱いてるのかよ」  ふゆというのは冬十郎のことだろう。白髪の男がそう呼んでいたはずだ。 「冬十郎様は毎日抱っこしてくれるよ」 「抱っこじゃねぇよ」 「え?」 「だから、こう……こんな風に……」  と、男はわたしの片方の膝裏に手を入れた。 「足を開かせて、ええと……痛いことされただろ?」  わたしはきょとんと男を見返した。 「冬十郎様はわたしに痛いことなんてしない」 「は?」 「冬十郎様はとても優しい人だから」  今度は男がきょとんとした顔でわたしを見た。 「それは知ってるけど……」  口籠った後、ちっと舌打ちして手を離し、男はバスタオルを投げて寄越した。 「自分で拭け」 「あ、うん」  言われるまま体を拭いている内に、わたしはふと思い出した。 「そういえば、一度だけ、冬十郎様に『痛いことをしてもいいか』って聞かれたことがあった……」  脱衣所から出て行こうとしていた男が振り返った。
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