184人が本棚に入れています
本棚に追加
「おやめください、姫様にそのような!」
「静かにさせろ」
深雪の命を受けて、一人が葵の顔を殴った。
痛そうだったけど、蛇の一族は怪我してもすぐに治る。
葵は平気な顔をしていたし、わたしも顔を上げて深雪を睨みつけた。
「首輪なんて、すごい悪趣味」
「己が獣以下だと分からせるためだ。さっさとついてこい」
深雪がぐいっと鎖を引っ張り、わたしは前に数歩よろけた。
葵を押さえつけている者達が、違う方向に葵を引っ張っていこうとしている。
「待って、葵をどうするの」
深雪はちらりと葵を見た。
「殺すほかあるまい」
「そんな」
「裏切者はどこの世界でも許されぬ」
「で、でも、蛇の一族は殺せないんでしょう?」
深雪は馬鹿にしたようにふっと笑った。
「我らは不老だが不死ではない。死にたいと思えばいつでも死ねるのだ。死にたいと思うほどの責め苦を与えれば、耐えられずに自ら死を選ぶ」
わたしは数人に押さえつけられている葵を見た。
殴られた傷はもう消えていた。
「死にたいと思うほどの責め苦って?」
「そうだな」
深雪はすっと手を前に出した。
心得たように軍服の一人が、葵の刀を深雪へ渡す。
深雪はその切っ先をわたしの喉元へ向けた。
「その者の崇拝する女の肌を、目の前で切り刻むか? それとも、一晩中かわるがわる犯してやるのが良いか」
「お、おやめください! 姫様にそのような無体な真似をなさってはいけません! 姫様は未だ清らかな体でいらっしゃいます!」
悲鳴のような裏返った声で葵が叫んだ。
「はっ、下らぬ嘘を申すな」
「嘘ではありません! ふゆ様は本当に、姫様をとても大切に大切に慈しんで来られたのです!」
深雪が目を見開く。
「ばかな……とても信じられぬ」
「本当でございます! 姫様は男が女を抱くことを、抱っこだと思っているような子供でございます! ふゆ様の付けた跡は首元だけで、ほかには何もありませんでした! あれは恐らくふゆ様が、皆に見せるためにわざと付けたのでしょう」
深雪がわたしの鎖を強く引っ張った。
「わっ」
よろめきながら深雪の目の前まで来ると、「見せよ」と言われた。
最初のコメントを投稿しよう!