05 冬十郎

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 私達の住むマンションは都内にある。11階建てで、住民は身内のみ。空いている部屋も多い。  加賀見『冬七郎』が企業し、今は孫の『冬十郎』が引き継いだということになっているリフォーム会社と、清掃会社と、葬儀会社の合同社員寮だ。  表向きは。 「おかえりなさいませ、ご当代様」  この建物全般の管理人をしている七瀬が、出迎えのためにマンション前に立っていた。  車まで走り寄ってきて、後部座席のドアを開ける。  葬儀には来なかったが、ネクタイは黒だ。 「ほかの者は?」 「急に依頼がありまして」 「依頼? 私も行こうか」 「いえ、何も無かったことにするだけの単純な仕事ですから」 「鬼童関係か」  葬儀場で会った恭介は何も言っていなかったが……? 「いえ。鬼童経由での依頼ですが、依頼主も死体も人間です」 「そうか」 「はい……」  眩しそうに目を細め、七瀬は私の顔を見た。 「やはりその若いお姿の方が良いですね」 「ああ、だいぶ楽だ」 「はい」  うなずく七瀬の髪が揺れる。  七瀬はいつでも肩に届かない位置で髪を切りそろえている。  髭や爪と同じように、髪も毎日きっちりと手入れをしているのだろう。  髪は伸ばして結んでしまった方が、ごまかしがきいて楽なのだが。  私が先に降りると、後ろから少女も続いた。  寒そうにコートの前を掻き合わせるが、裾を引きずっていることに気付いていない。  まるで幼子のようで、少し笑ってしまう。  少女が七瀬を見て、小さく「さんごう?」と呟いた。 「何か言ったか?」 「いえ、あの、みんな似ているなって、思ったので」 「ああ……」  みんなとは、私と三輪山と七瀬のことだろう。 「親戚のようなものだからな」  皆、同じ血を引いている。  我らは昔から、『蛇の一族』と呼ばれている。  嘘か誠か証明のしようもない話だが、鬼灯(ほおずき)の目を持つ白蛇の化身が始祖であるとか。  鬼灯の目と表現されるのは赤っぽい色の瞳をしていたからだろうし、白蛇の化身と呼ばれたのは多分、肌や髪が白かったためだろう。先天性色素欠乏症、つまりアルビノだったと考えられる。言い伝えから分かるのは、祖先にアルビノの人物がいて、周囲の人間から『白蛇の化身』と崇められていたということだけだ。それでなぜ、我々が老いない体を持っているのかは、まったく説明がつかないのだが。
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