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「よろしいですか? ここで一曲、歌ってあげても?」
それは賭けだった。
深雪が歌うことを許すかどうか、そしてわたしの歌に思い通りの効果があるのかどうか。
「好きにすればよい」
わたしの歌に興味がわいたのか、それとも犬を哀れと思ったのか、深雪はあっさり許可を出した。
「ありがとうございます」
わたしは内心駆け寄りたいのをこらえて、鎖を鳴らしながらゆっくりと葵に近づいた。
「姫様……」
涙を零しながら、葵がわたしを見上げている。
「ねぇ、最後の抱擁も許されないの?」
聞くと、押さえつけていた男達が深雪を見る。
深雪がうなずいたので、男達は少し離れた。
「葵……」
そっと抱き寄せて両手でその耳を塞ぐ。
そして、大きく息を吸い、この場の全員に聞こえるようにわたしはゆりかごの歌を歌った。
ぱた、ぱた、と葵の横の二人が音もなく砂の上に倒れた。
続いて、ぱたぱたぱた、とまるでドミノ倒しのように、軍服の男達が倒れていく。
見ていてちょっと面白かった。
もう目覚めなくていい、ゆっくり寝ていなさい……。
「そなた、なにを……」
眩暈がしたかのようによろめきながら、深雪がわたしを睨んだ。
わたしは歌声を大きくして、一層強く力を乗せた。
眠って、もう二度と起きないで……!
「……そなたは……化け物か……!」
深雪が砂に落ちていた葵の刀をつかむのが見えた。
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