36 深雪

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「よろしいですか? ここで一曲、歌ってあげても?」  それは賭けだった。  深雪が歌うことを許すかどうか、そしてわたしの歌に思い通りの効果があるのかどうか。 「好きにすればよい」  わたしの歌に興味がわいたのか、それとも犬を哀れと思ったのか、深雪はあっさり許可を出した。 「ありがとうございます」  わたしは内心駆け寄りたいのをこらえて、鎖を鳴らしながらゆっくりと葵に近づいた。 「姫様……」  涙を零しながら、葵がわたしを見上げている。 「ねぇ、最後の抱擁も許されないの?」  聞くと、押さえつけていた男達が深雪を見る。  深雪がうなずいたので、男達は少し離れた。 「葵……」  そっと抱き寄せて両手でその耳を塞ぐ。  そして、大きく息を吸い、この場の全員に聞こえるようにわたしはゆりかごの歌を歌った。  ぱた、ぱた、と葵の横の二人が音もなく砂の上に倒れた。  続いて、ぱたぱたぱた、とまるでドミノ倒しのように、軍服の男達が倒れていく。  見ていてちょっと面白かった。  もう目覚めなくていい、ゆっくり寝ていなさい……。 「そなた、なにを……」  眩暈がしたかのようによろめきながら、深雪がわたしを睨んだ。  わたしは歌声を大きくして、一層強く力を乗せた。  眠って、もう二度と起きないで……! 「……そなたは……化け物か……!」  深雪が砂に落ちていた葵の刀をつかむのが見えた。
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