37 何も怖くない

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 髪を撫でる、背中を撫でる、腰を抱き寄せる。  涙で濡れている姫の頬に唇を押し付ける。  何度も何度もキスの雨を降らせる。  涙を舐め取って飲み込む。  ずっと姫という存在に飢えていたのだと、今更ながら自覚した。 「とうじゅ……んんっ……」  飢餓状態で我慢がきかず、何か言いかけた姫の口をふさいだ。  ただ執拗に深く口付けた。  二人の歓喜と同調するように大量の光の粒がいくつも小爆発を起こして、まばゆいほどに光りながら降り注いでくる。  その顔を見たくていったん唇を離すと、今度は姫の唇が吸いついてくる。  貪るように舌をからめあって、互いの唾液を互いに飲み込んで、やっと私達は体を離し、息をついて互いの顔を見つめあった。  宝石を砕いたようなキラキラした光の洪水が、私たち二人を祝福するかのように後から後から降り注いでくる。 「ずっと、ずっと会いたかったです……」  泣きはらした顔で、姫が笑った。 「遅くなってすまない」 「冬十郎様は絶対に見つけてくれるって、分かっていました」  姫の細い指が私の胸を撫でた。 「冬十郎様、傷は……?」 「傷?」 「あの時、いっぱい矢が刺さっていたから」 「ああ、その傷ならもうとうに消えた」  姫の顔がふにゃっと緩む。 「よかった」 「姫は? 怪我や痛むところは無いか」 「大丈夫です。かすり傷くらいで……あっ」  姫が声を上げた途端に光の洪水が霧となってサーっと消え失せた。  私達を覆い隠していた光のドームが消えて、一瞬で周囲の視界が開けた。  意識のない先代の体を心配そうに抱えている七瀬と、ほかの里の者を社員達が次々と運んでいるのが見える。  すぐ横に刀の刺さった男がまだ転がっていた。  恭介が少し離れたところに胡坐をかいて、呆れたようにこちらを見ている。 「やれやれ、やっとラブシーン終了か」 「な、恭介お前……」 「葵!」  私が恭介の軽口に言葉を返すより早く、姫が横の男の体に取り縋った。 「葵、ごめん。わたし、冬十郎様に夢中で……」  男は口の端から血を流しながら、こくりとうなずいた。  胸を貫かれて呼吸も出来ず、相当苦しいはずだが、男は静かに姫を見上げている。 「今、抜いてあげるから」  姫はぎゅっと刀の柄を握ったが、その細い指では引き抜くのは難しそうだった。
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