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「冬十郎様、私……」
言いながら、私の右腕の袖をまくっていく。
姫のつけた歯型が徐々に見えてくる。
「離れている間も、何も怖くなかった……」
姫がゆっくりと自分がつけた歯型に指先を這わせていく。
一瞬、ぞくりとして息を呑む。
「これのことを思ったら………冬十郎様と私は、最後の最後まで一緒なんだって思ったら、怖いものなんて何一つ無いんです」
姫は微笑んだ。
いつもの幼い笑顔ではない。
どこか嫣然とした、女の笑みだった。
吸い寄せられるように、姫に口付けた。
ゆっくりと舌に舌をつける。見られていることも忘れて、また夢中でむしゃぶりついてしまう。
「ん……」
最後に舌を引き込む様に強く吸って、私は唇を離した。姫は唇に付いたクリームをすくうかのように唾液をペロリと舐めて、とろんとした目を見せた。
「早く帰りたい……。今日は冬十郎様と一緒に寝ます」
甘えるように言って、私の肩に頭を乗せてくる。
「冬十郎様のキスは味がするのか」
すぐ横で男がぼそりと呟く。
「味……?」
聞き間違えたかと思ったが、姫の声が耳元で答えた。
「うん……甘くて、おいしい……」
「へぇ、そっか」
「うん……冬十郎様は匂いも甘いし、味も甘い……こうしてくっついているだけで……体が溶けそ……」
急にかくんと腕に重みがかかってくる。
「姫? 姫……?」
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