37 何も怖くない

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「冬十郎様、私……」  言いながら、私の右腕の袖をまくっていく。  姫のつけた歯型が徐々に見えてくる。 「離れている間も、何も怖くなかった……」  姫がゆっくりと自分がつけた歯型に指先を這わせていく。  一瞬、ぞくりとして息を呑む。 「これのことを思ったら………冬十郎様と私は、最後の最後まで一緒なんだって思ったら、怖いものなんて何一つ無いんです」  姫は微笑んだ。  いつもの幼い笑顔ではない。  どこか嫣然とした、女の笑みだった。  吸い寄せられるように、姫に口付けた。  ゆっくりと舌に舌をつける。見られていることも忘れて、また夢中でむしゃぶりついてしまう。 「ん……」  最後に舌を引き込む様に強く吸って、私は唇を離した。姫は唇に付いたクリームをすくうかのように唾液をペロリと舐めて、とろんとした目を見せた。 「早く帰りたい……。今日は冬十郎様と一緒に寝ます」  甘えるように言って、私の肩に頭を乗せてくる。 「冬十郎様のキスは味がするのか」  すぐ横で男がぼそりと呟く。 「味……?」  聞き間違えたかと思ったが、姫の声が耳元で答えた。 「うん……甘くて、おいしい……」 「へぇ、そっか」 「うん……冬十郎様は匂いも甘いし、味も甘い……こうしてくっついているだけで……体が溶けそ……」  急にかくんと腕に重みがかかってくる。 「姫? 姫……?」
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