39 スイッチ

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39 スイッチ

 二十数名の里の者と先代、通りかかりらしい人間の男女も警察官も、一時的に鬼童の息のかかった病院に収容してもらった。全員、外傷も無く呼吸も安定しているのに、叩いてもゆすっても一向に目を覚ます気配がないのだ。  七瀬が先代に付き添って病院へ行きたいというので、里の者達の世話のため数人の社員を同行させた。  あのホテルであった二体の死体の騒動についても、結局こちらで後始末をしなくてはならなかった。ある程度、電話で根回しを済ませてから三輪山に残りの社員を預けて後処理のために現場へ行かせることにした。 「しかし恐ろしいお姫さんだな。鬼の頭領が戦支度までしてきたというのに、たった一人で敵を撃退しちまうとは……」  運転席には葵、助手席には座席の間からこちらを振り返っている恭介がいる。  私は後部座席に姫を横たえ、膝枕するように頭を支えている。姫は汚れたバスローブ一枚だったで、私のコートを体の上にかけていた。 「鬼童には感謝する。後で請求書を送ってくれ」 「使わなかった武器はどうする? もう必要はないだろ?」 「だが、いつまた何があるか……」 「維持するだけでも面倒だぞ。必要になればすぐにまた用意してやるさ」 「そうだな……」  その時、姫が膝の上で身動ぎした。 「姫、起きたのか」 「……冬十郎様……?」  姫が目を開き、ぼんやりとした様子で視線を揺らした。 「どうした。まだ寝ていて良いぞ」 「んー……」  眠そうに目をこすると、姫はよろよろと身を起こし、よじ登る様に私の肩に手をかけてくる。  反射的にその背中を支えると、コートが落ちるのも気にせず、バスローブ姿で胸にしがみついてきた。 「くっついて寝る……」 「そうか」  幼い子供のような仕草に、笑みが漏れる。  何も怖くなかったなどと強がりを言っても、やはり相当不安だったのだろう。  揺れる車の中では不安定なので細い腰と背中に手を回して支えると、恭介が呆れたような顔をしてこっちを見ている。  視線は気にしないようにして華奢な背中や髪を撫でてやると、姫の体から次第に力が抜けていき、また眠りについたのが分かった。  その様子をバックミラー越しに見ていたらしい葵が、ぼそりと口を開いた。 「冬十郎様は、まだ姫様と契ってはいないんだよな」 「そうなのか?」  葵の直接的な質問に、恭介が大きな声で驚く。 「大きな声を出すな」 「いやだが……」  興味津々という恭介に対して、さらに葵が言葉をぶつける。 「姫様は痛いことはされていないと言っていた」 「そうなのか?」  恭介は座席の間から身を乗り出すようにして同じ質問をしてくる。  私は溜息をついた。
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