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「最初に会ったとき……姫は人間の男にレイプされかかっていた。あの時の、破れたドレスで震えていた姿が、ひどく儚げで……」
あまりにもかわいそうで。
「姫は、心も体もまだ幼さが残っている。怖い出来事を思い出させるような真似はしたくないだろうが」
説明しながら、声に怒りがこもってしまった。
いつもの調子でからかわれるかと思ったが、恭介は真面目にうなずいた。
「なるほど。冬十郎らしいな」
「でもちょっと疑問なんだけどさ、冬十郎様がお優しいってのは知ってるけど、いつもあんな色気のある熱っぽい目で見つめられて、そんな裸同然の格好でくっつかれて、よく耐えられるなって」
「は?」
「だから、うっかり下半身が反応しちまうことだってあるんじゃ……下世話な話だけどさ」
おかしな質問をされて、私はバックミラー越しにしげしげと葵の顔を見た。
「葵は蛇の一族じゃないのか」
「一族だけど……それがどうかしたか?」
「一族なら肉体のコントロールが出来るだろう」
「え?」
「蛇は心の生き物なのだから」
「心の? ええと? それって、幽霊みたいに実態が無いって言う意味か?」
「いや違う」
私は首を振った。
「常に心が体より優先するという意味だ。蛇はいつでも心が肉体を凌駕できる。人間と違って、我らの生き死にを決めるのは肉体ではなく心だ。生きたいと思い続ける限り生き、死にたいと思えば死ぬ。生き物として一番強い欲である『生存欲』を心がコントロールできるのだから、たかが性欲などスイッチを切るように消すことが可能だろう」
「性欲のスイッチを切る? いやまさかロボットじゃねぇんだから……」
葵は、まるで人間のような反応を返してきた。
「葵は里で生まれ育った者ではないのか?」
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