40 犠牲ではない

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「歌だよ」  葵の声が聞こえる。 「多分、子守唄だったんだと思う」 「子守唄ぁ?」  恭介の驚く声も聞こえた。 「やめてくれよ、あの妖怪じみた御仁を眠らせたのが子守唄だなんて、笑い話もいいところだ」  リビングのソファで葵と恭介がサンドイッチをつまみながら話をしていた。  パーカーにジーンズを履いた葵は、十代の少年のように見えた。実年齢は私と同じくらいのはずだが、早くに成長が止まったのだろう。 「そう言われても、事実は事実だしな。俺は姫様が耳を塞いでくれていたから大丈夫だったけど、その歌を聞けば誰でも眠っちまうみたいだった」 「まぁ、通りがかりの人間はともかく、蛇のところの先代まで眠らせてしまったのは、まずかったな……」 「そうしなきゃあ俺が殺されてたんだ。姫様は俺のために、あそこで歌を歌ってくれたんだよ」  先代を眠らせたのは、姫の歌だったらしい。ショッピングモールであの歌を聞いた身としては、驚きというより納得の気分だ。 「だがそのせいで、あのお姫さんがどれだけの力を持っているかを鬼童に知らしめることになってしまった」 「でもさ、耳栓とかで簡単に防げるんだから、そんなたいした力じゃないだろ?」 「いつ歌を聞かせられるか分かっていればな……。だが、四六時中耳栓をしているわけにもいくまい」  私はソファに姫を寝かせて、その隣に腰を下ろした。  花野に毛布を持ってくるよう頼んでから、葵と恭介に向き直る。 「冬十郎、お前でもその歌を聞けば眠ってしまうのか?」  聞かれてうなずく。 「だろうな……。蛇の一族で一番永い時を生きているのが先代だ。一族の誰よりも強い心をお持ちの方だ。先代が耐えきれなかったものは、おそらく誰も抗えまい」 「うーん、抗えるとしたらそこのお姫さんに似た能力を持つ者なのだろうが……」  似た能力と聞いて、恭介に聞きたいことがあるのを思い出した。
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