41 子守唄

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「清香様が!」  声に振り返り、わたしが状況を把握する前に大男が飛び出していた。 「清香!」  花野の後ろから入って来た清香の肩を大男がつかむ。  大きなバッグが床に落ちる。  私の目にはまず鮮やかな赤色が飛び込んできた。  服の模様かと思ったが、よく見るとそれは血の汚れだった。 「どうした、何があった? その血は?」  清香が苦笑して首を振る。 「大げさに騒がないで。私の血じゃないわ。いえ、私の血も混じっているかもしれないけど、もう傷はふさがっているから」 「あ、ああ、そうか、そうだよな……」 「そうよ、恭介はいつも心配し過ぎよ」 「だが、怪我をすれば痛みがあるのだろう? 心配にもなる」 「大丈夫、気絶している内に治っちゃったから」 「はあ? それは気絶するほどの衝撃があったということじゃないか!」  ばかやろうと言いながら、大男が清香を抱きしめる。 「だから、大丈夫だってば。恭介は本当に心配性ね」  あやすように、清香がその背中をポンポンと叩く。  いつもわたしを怖い目で見る大男は、清香の前だと別人みたいだった。  冬十郎はわたしの肩に手を置いたまま、少し身を乗り出した。 「叔母上、何があった」  大男に抱きつかれた状態で、清香が横を向いた。 「事故の話は聞いてる?」 「ああ、つい先ほど、恭介に電話があった」 「追突された側の車に私も乗せてもらっていたのよ。で、事故があって、気絶から覚めたらすごい大騒ぎになっていて……。後ろの車に乗っていた鬼童の人達が、みんな意識不明だから診てくれって頼まれて……」 「姫に眠らされたなどと言っているそうだな」 「うん、そうなの。みんな大騒ぎよ」  清香があやすように大男の肩を叩いて、体を離そうとする。 「姫の力が疑われるような症状なのか」 「うーん、まぁ確かにね、どこも異常が無いのにただ眠っているとしか思えない人もいたわ。病院でCTを撮ればもしかしたら頭の内部に損傷のある可能性も無きにしもあらずなんだけど……」 「だが、五人全員だぞ」  大男が清香からやっと離れて、口を挟んでくる。 「五人全員が意識不明、怪我のあるやつも無いやつも」 「そこなのよねぇ。五人全員、骨折している人もかすり傷の人も、みんな同じようにまったく目を覚まさないのよ。一応、全員を病院に送ったんだけど、他の鬼童の人達が、蛇の先代頭領を眠らせたあの化け物の攻撃じゃないかって騒ぎだしちゃって……!」  清香はふうっと溜息を吐いた。
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