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「なんだかね、あの大柄で屈強な鬼の男達がやたらびびっちゃっているのよ。よっぽど衝撃的だったらしいわ、姫ちゃんが里の連中を眠らせちゃった現場は……」
大男がうなずく。
「俺も正直、あれには驚愕した。そこの小さなお姫さんの前で、二十数人の男がひれ伏すように倒れていたんだからな」
不気味なものを見るように大男の視線がこちらへ動く。
冬十郎がそれを察したように、わたしの肩を引き寄せた。
「ま、それで、全員でここに押しかけてきそうな勢いの連中を何とかなだめて、詳しい話を聞いてくるからって言って、まずは私一人で来たってわけ」
清香はすいっとこちらへ近づいてきて、覗き込むように顔を寄せてきた。
「姫ちゃん、もしかして何かした?」
わたしは大きく首を振った。
「わたし、何もしていない! 何も知らない!」
「当たり前だ。姫がそんなことをする理由が無い」
「そうよねぇ、いったいどういうことなのかしら」
清香はソファに座り、まだ入り口に立っていた花野に「お水くれる?」と言った。花野がうなずいて、パタパタと奥へ走っていく。
「姫様のほかにも、同じ力を持つ者がいるってことじゃないのか」
葵が眉間にしわを寄せ、清香を見た。
「どうかしら? 精神干渉の力って本当にレアみたいだから。そう何人もいるかしら? 私だって三百年生きてきて、会うのは姫ちゃんが初めてなのよ」
「でもお前、清香って名前なんだよな」
「そうだけど……あれ? あなた誰?」
「俺が誰かはどうでもいい。お前じゃないのか? 清姫の娘、清香だろ?」
「そ……うだけど……?」
「『さらわれ姫』の血を引いた娘が、衝突事故の現場にいたんだ。お前がすべて仕組んで、姫様に罪をなすりつけているんじゃないのか」
「えっと、さらわれ姫って何のこと? 何を言って……?」
大男が前へ出て、葵の肩を押す。
「おかしな言いがかりはやめろ! 清香がそんなことをするはずがない」
「でも、姫様がここから思念を飛ばして攻撃したなんてのより、よっぽどありえるだろ!」
「いや待て。姫を疑うのは論外だが、叔母上にもそんな力は……」
言い合いを始めた三人と、コップを持ってきた花野が、何かのメロディーに気付いて動きを止めた。
「電話か?」
大男がスマホを取り出して首を振った。
「いや、俺のじゃないぞ」
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