07 ただ一人

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「冬十郎様……!」  あっという間に他の『親』を排除して、冬十郎はわたしを腕に抱いていた。  わたしは生まれて初めて声を出して泣いた。  離されるのがいやで、必死で首にしがみついた。 「怖い思いをさせた」  耳元で優しい声がする。  冬十郎の甘い匂いがする。  まだ嗚咽が止まらない。 「すまない」  わたしは怖くて泣いているわけではなかった。 『親』が変わる時にはよく暴力沙汰になるから、人が殴られるのを見るのは慣れている。 「もう大丈夫だから」  背中を撫でる手が温かくてすごく優しい。  この涙の理由を、うまく説明できない。  追いかけてきた冬十郎の姿を見たとたんに、針が振り切れたように感情が高ぶった。  よく分からないけれど、ものすごく高揚して、興奮して、何かが溢れ出すようにして涙になった。  それは多分、怖いというのとは逆の感情だ。 「すまない。私の落ち度だ」  だからなんとなく、何度も謝ってくれる冬十郎にはわたしのこの気持ちは言わない方がいい気がした。怖がって泣いているのだと誤解してくれたままの方が、この人の腕に甘えていられる。  嗚咽は少しずつ収まってきたが、まだ抱いていてほしくて、ぎゅっとしがみつく。 「もう大丈夫だ。安心しなさい」  冬十郎の手がわたしの背をポンポンと優しく叩いてくれる。  その肩に押し付けていた顔を、ゆっくり上げてみる。  わたしをさらおうとした男が、泡を吹いて倒れている。  丸顔の女も、頭から血を流して倒れている。  もうこの場に、わたしの『親』候補はいないと分かって、少しほっとした。
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