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周りが少し、ざわざわし始めている。
野次馬はまだ少ないが、誰かが通報したのだろう。
遠くにサイレンの音がする。
「ご当代様!」
2号と3号が一緒に駆け寄ってくるのが見えた。
「これは」
と、倒れている二人を見て2号が絶句している。
「何があったのですか」
3号が冷静に聞く。
冬十郎がわたしに目線を寄越した。
「また、誘拐されかけた」
「ええ? またですか?」
2号が大げさに驚く。
「さっきの誘拐からまだ二時間も経っていないのに?」
「ああ。だが事実だ。佐藤はマンションから無断でこの子を連れ出そうとしたし、この男は佐藤を殴ってこの子を連れ去ろうとした」
「佐藤さんが……。経歴も為人(ひととなり)もきちんと調べたのですが……申し訳ございません」
3号が頭を下げ、2号は困惑したような顔でわたしの方を見た。
「こんなに次から次へと……何か、この子おかしくないですか?」
「その話は後にしましょう。冬十郎様、いかがいたしますか」
わたしを抱く冬十郎の手の力が少し強まる。
「そうだな。この場には、私もこの子もいなかった。佐藤が一人で歩いているところを、この男がいきなり殴り掛かった、ようだな」
「かしこまりました。警察へはそのように」
「ごねるようなら、上層部の話の分かる輩にわたしから……」
「いえ、万事心得ておりますので」
「では、頼む」
3号と2号が恭しく頭を下げ、冬十郎はわたしを抱いたまま、当然のようにその場を後にした。
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