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「親達? みんな? みんなとは……?」
「今までわたしをさらった人達です。ええと、わたしの『親』になりたがった人達」
「誘拐されたのは、今日が初めてではないのか?」
わたしはこくりとうなずいた。
「何度も何度もさらわれました。本当の親が分からなくなるくらい、何度も」
冬十郎はきれいな目を見開いた。
とても驚いたように、そのまま固まっている。
この人は、どんな表情をしてもきれいだと思う。
肌は白くて陶器みたいだし、ほくろもシミも見当たらない。
本当に、見れば見るほど………なんだか作り物めいて見える。
「君は記憶喪失では無かったのか」
形のいい唇が動く。
わたしはうなずいて、冬十郎を見上げた。
「冬十郎様はわたしに名前を付けないのですか?」
「名前……? そういえば、あの工場でもそんなことを言っていたな」
「今まで、次から次へ親が変わって、その度に名前が変わりました。わたしをさらった人は、まず初めに名前を付けるんです。いつでもそうなんです。さっきの女の人だって、わたしをショウコって呼んでいたでしょう?」
「あ、ああ、そうだったな」
「それから、いつもだったらその人の家に連れていかれて、その人好みの服に着替えさせられて、その人の呼び方を教えられるんです」
「呼び方?」
「はい、パパと呼んでとか、お母様と呼びなさいとか」
「ああ……なるほど」
「それから、一緒に絵本を読んだり、歌を歌ったり、ゲームをしたり、その人が望む子供らしいことをするように言われます。だいたいどの『親』にも似たり寄ったりのことをさせるので、それで特に困ることはありませんでした。髪を切られたり、染められたり、パーマをかけられたりしたこともあるし、一緒に裁縫をしたり、お菓子作りをしたこともあります。ピアノを弾けと言われたことがあって、でたらめに弾いたら相手がちょっと困っていましたけれど……」
もう顔もはっきり思い出せない大勢の『親』達。
冬十郎のきれいな目がじっと見つめてくるので、わたしはドキドキしていつになくたくさん喋った。
「それで、その人の好みの食事やおやつを与えられるんです。三食全部ケーキの人がいたり、サラダしか出さない人もいたりしたけれど、どの『親』も『これがあなたの大好物よね』って言うので、はいと素直に返事して、どんなものを出されても嬉しそうに食べるようにしていました。新しい『親』に合わせて、わたしは名前も性格も好物も変えて生きてきたんです。だから……」
わたしを見る冬十郎の目が少し潤んでいるのに気付いた。
あれ、と思ってよく見ようとすると、冬十郎は目をそらした。
何かいけないことを言っただろうか。
慌てて言いつのる。
「あの、だから、好きとか嫌いとか、わたしにはありません。冬十郎様の好みの服を着せてください。冬十郎様の食べさせたいものを与えてください。わたしを冬十郎様の好きなように……」
ふわりと優しく抱き寄せられた。
甘くいい香りが鼻腔をくすぐる。
「違う」
耳元で硬い張りつめた声がする。
「私の望みは、自分の好みを君に押し付けてお人形にすることなどでは、決してない」
怒りを含んだ声音が、わたしの心臓をどん、と叩いた気がした。
「え…………?」
「そんな奴らと一緒にするでない」
明らかな軽蔑と嫌悪の声。
「でも……」
わたしは『そんな奴ら』がいたから生きてこられた。
『そんな奴ら』に縋って生きてきた。
それがわたしの日常、わたしの常識……。
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