08 哀れでかわいそうな子

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 冬十郎はわたしを抱く手に力を込めた。 「今まで、つらかったな……」  憐憫のこもった声音に、心の奥が震え始める。  今まで、別につらくなんてなかった。  つらさも苦しさも何も感じなかった……はずなのに。 「かわいそうに……」  かわいそう?  待って、よく、分からない……。  動揺と羞恥で胸が苦しくなってくる。   わたしはそんなにかわいそうなの……?  そんなに痛ましい子供なの……?   冬十郎の寄越す憐れみに、ぐらぐらと眩暈がしてくる。 「私は、君が望むものを与えたい」  わたしが望むもの……? 「君の望みを教えてくれ」  わたしの望み……?  それはまるで、とどめを刺す一言だった。  わたしの望みなど、他の誰が聞いただろうか?  胸の中が渦巻くように狂おしく、轟々と荒れ始める。  自分で自分を支えていられなくて、震える指で冬十郎にぎゅっとしがみつく。  冬十郎がわたしの顔を覗き込むようにするので、わたしはうつむいて、髪で顔を隠した。  冬十郎は、わたしを哀れでかわいそうな子供だと思っている。  次から次へとさらわれて、お人形にされて、そうしなければ生きては来られなかったのだから、実際に哀れでかわいそうな子供なのだろう。 「欲しいもの、何かないのか?」  囁くような問いに対する正解が分からない。  望むもの……?  欲しいもの…………?  そんなこと考えたことが無いから、なんだかすごく混乱して、逃げ出したくなってくる。  でも、冬十郎の匂いも体温もすごく心地よくて。  聞こえてくる規則正しい鼓動は、すごく安心する音で。  冬十郎の甘い匂いを胸いっぱいに吸い込む。  気持ちが良くて、ふわふわしてくる。  ああ、もういいや……。  もう、考えるのはやめた。  冬十郎がかわいそうと言っているのなら、わたしはかわいそうな子になろう。  弱々しく震えてみせて、憐れんでもらって、優しくしてもらって……。  こうやって、ずっと、抱きしめていてもらえたら……。   もう、それでいい、それでいいや……。 「わたし、甘えたい……」 「ん?」 「冬十郎様に、甘えたい、です……」  演技ではなく、声がかすれてしまった。  冬十郎はすぐに返事をしなかった。  わがままだったろうか?  気に入らない答えだっただろうか? 「あの、ごめんなさい、わたし……」  不安で本当に体が震えてきた。   冬十郎がわたしを見ている。  わたしも必死にその目を見返す。  お願い、冬十郎、わたしを拒まないで。  お願い。 「……ああ、分かった」  大きな手が、少しぎこちなくわたしの髪を撫でた。 「好きなだけ、甘えるとよいぞ」
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