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しばらくそうして姫の髪を撫でていると、ノックする音がして七瀬が入室してきた。
「失礼いたします」
膝の上の姫を見て、七瀬は一瞬ひくりと頬をひきつらせた。
子供を膝に抱いている私を初めて目にしたからだろう。
が、すぐにいつものすました顔に戻り、警察への対応が終了したことを淡々と報告し始めた。
「佐藤さんは意識を取り戻しました。幸い軽傷だったようですが、少し、記憶が混乱していまして」
七瀬はちらりと姫を見た。
「佐藤さんには十年以上前に事故で亡くなった娘さんがいたらしく、一時的に自分の娘とその子供とを混同してしまったようですね」
「もしや、亡くなったという娘の名はショウコというのではないか?」
「え、ええ、その通りです」
「そうか……。彼女にはできるだけのことをしてやってくれ」
「かしこまりました。治療費と当面の生活費などを用意いたします。それと、これを」
と、七瀬は量販店の紙袋を差し出してきた。
「佐藤さんが準備していたものです。サイズが小さすぎてほとんど着られないでしょうが、部屋着くらいは大丈夫そうです」
着替え、か。
私は姫を見た。
姫がきょとんとした顔で私を見返してくる。
確かにドレスは破けているし、外を歩いた靴下は汚れている。
姫は甘えたいと言っていたが、こういう場合、私が手取り足取り着替えさせてやるものなのだろうか。
しかし、子供とはいえ女性の服を、身内でもない男の私が脱がせるというのはいかがなものだろうか。
心の内で迷っている間に、今度は三輪山の声が聞こえた。
「失礼いたします。ご当代様、清香様がいらっしゃいました」
「ああ、通せ」
私の父親の異母妹にあたる加賀見清香は、叔母といっても見た目は私より若く、服も化粧も今風で華やかだ。江戸の末期にはすでに医者として生きていたのだが、戸籍を変えるたびに大学に入り直して、医師免許を取り直している。医学がどんどん進化していくので、常に最新のものを学びたいのだと本人は言っていた。
「久しぶりー冬九、じゃなくて冬十郎、わざわざ清香様が来てや……なぁっ!」
清香は、姫を見るなり悲鳴のような声を上げた。
「な、な、なにそれ!! あんた、なんってものを拾ってきたのよ!!」
姫がビクッとして、私のシャツをつかんだ。
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