10 タチの悪い化け物

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10 タチの悪い化け物

 大声に驚いた姫を、私は庇うように抱き寄せた。 「叔母上、この子はモノではないし拾ったわけでもないのだが」 「そういうことを言ってるんじゃないわ! そ、そ、それっ!」  清香は蒼ざめた顔で姫を指さした。  姫が顔を隠すように私の胸に縋りついてくる。 「あああああ、それ、ダメな奴だわ! ものすごくたちの悪いやつ……」 「たちの悪い?」 「分からないの? いいからすぐその化け物から離れて!!」 「いや、この子は」 「絶対ただの人間じゃないわ! 見てよ、この鳥肌っ」  ブラウスの袖をまくりながら、清香がこちらへ足を踏み出した途端、何かに弾かれるように後ろへ倒れこんだ。 「きゃぁ!」 「清香様! わっ」  三輪山と七瀬が駆け寄ろうとして、同じように後ろへ弾かれた。 「な、なんだ?」  三輪山がキョロキョロとあたりを見ている。 「ご当代様!?」  がバリと起き上がって、七瀬が私を見た。 「大丈夫だ、騒ぐな」  これは姫の力だとすぐに分かった。  廃工場で姫に警戒され、近づけなかったことを思い出す。 「姫」  呼びかけに、姫は答えない。 「姫、怖がらなくていい。この者らは敵ではない」  聞こえていないのか、姫は私の胸にしがみついたままカタカタと震えている。  七瀬は慎重に足を進め、私達から2メートル程のところで止まった。 「これ以上は近づけないようです」 「これ、なんなの? 壁?」  清香は立ち上がり、廃工場で私がしたように見えない壁を手で押すような仕草をした。 「これ……実際にここに壁があるわけじゃないわね。精神干渉か何か?」  私は同意のうなずきを返した。 「私もそう思う。それ以上は近づけないのだという強い暗示のようなものだな」 七瀬が体ごとゆっくりと壁を押すようにして、こちらに来ようとする。  しかし、胸を押さえて息苦しさに耐えかねたように、また後ろへ下がった。 「だめです、近づけ、ません……」  苦し気に七瀬が膝をつく。
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