10 タチの悪い化け物

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「すごい力ね」 「ご当代様はそんなに近くにいて平気なのですか?」  三輪山の問いに私はうなずいた。 「私はもう姫にとって警戒対象ではないらしい」 「え、ちょ、なんでちょっと嬉しそうなのよ!」  清香が怒ったように人の顔を指差してくる。 「そうか?」 「そうよ!」  ついつい微笑んでしまったらしい。 「まぁ、そうだな。嬉しいのは本当なので仕方あるまい」 「はぁ?!」  と、大きな声を出したのは清香だったが、同じくらいビックリしたように姫が私を見上げた。  怯えたような、縋るような顔で私を見上げ、やはり、目に一杯涙をためている。  今日だけで、この子はどれだけ怖い思いをしたのだろう。  胸が痛くなるほど、不憫でならない。 「大丈夫だ、姫」  零れ落ちてくる涙を、指先で拭ってやりながら言い聞かせる。 「ここに姫の敵はいない。怖いことは何もない」  誓いを立てる騎士のように、小さな手を両手で握った。 「私がいる。私が姫を守る」  姫がじっと私の目を見つめた。  吸い込まれるような眩暈を感じる。 「ずっと……?」  姫が問う。 「ああ、ずっとだ」 「ほんとに……?」  また姫が問う。 「ああ。本当にずっとだ。いくらでも甘えてよいと言ったであろう?」 「はい……」  姫がギュッと目を閉じた。 目尻にたまっていた涙がまたぽろぽろ零れ落ちた。 「はい、とうじゅうろうさま……」  姫は私の名前を確かめるようにゆっくり口にして、笑う。 と、急にかくりと私の腕に落ちてきた。
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