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「姫!?」
完全に力を失った体は、それでも軽い。
「姫、姫」
力を使うと消耗するのだろうか。
廃工場での時も倒れそうになっていたが、今度は本当に気を失ってしまったようだった。
「壁が消えたようです」
「近づけます」
安堵したような二人の後ろで、清香がムンクの叫びのように両手で頬を押さえていた。
「いくらでも甘えろですって、ええ? 蛇の頭領のセリフとは思えない。もう完全に骨抜きにされてるんじゃないの、ええ、ナニコレ、マボロシ?」
「何を大げさな」
清香の揶揄に溜息をつき、ぐったりしている姫をソファに横たえる。
「そんなことより、この子を診てくれないか」
「そんなことよりって、ねぇ、分かっているの? この子は精神干渉の力を使うのよ。その様子じゃぁ冬九、じゃなくて冬十郎の心もすでに干渉を受けているんじゃ……」
「ああ、多少の影響は受けていると思うが……」
清香が思い切り眉をしかめる。
「多少の影響?」
「ああ、多少の……」
言いかけてハッとした。
違う、多少どころではない。
まるで、お姫様に忠誠を誓う騎士のように、今日会ったばかりの子供の両手を握り『ずっと私が守る』と誓いを立ててしまった。
その境遇に同情した面はあるが、それだけではないとはっきり自覚できる。
「どうやら……かなり強い影響を受けているな」
素直に認めると、清香はますます顔を蒼くした。
「分かっているなら、もう関わらない方がいいわね。警察に届けるか、しかるべき施設に預けるか」
「それはできない」
「どうしてよ」
「人間にこの子は守り切れない。おそらく一日ともたずにまたさらわれるだろう」
「さらわれる?」
「この子は今日、たった数時間のうちに二回も誘拐されかけた。おそらく力の制御がうまく出来ていないせいだ」
私は姫の細い体を見下ろした。
誰かに庇護されないと、あっという間に死んでしまいそうな弱い生き物。
清香もつられたように姫を見下ろした。
「それは……それは確かにかわいそうだけど、蛇の一族の当代頭領である冬十郎が、わざわざそんな厄介なものを引き受けなくてもいいんじゃない?」
「ずっと守るとこの子に約束した」
「そうだけど、それはこの子の力で言わされたようなものじゃ……」
私は姫の頬に触れた。
柔らかい肌だが、少し荒れている。
きっと痩せた体も、傷んだ髪も、次々と『親』が変わっていく異常な生活のせいだろう。
「姫は後どれくらい生きると思う?」
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