10 タチの悪い化け物

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「姫!?」  完全に力を失った体は、それでも軽い。 「姫、姫」  力を使うと消耗するのだろうか。  廃工場での時も倒れそうになっていたが、今度は本当に気を失ってしまったようだった。 「壁が消えたようです」 「近づけます」  安堵したような二人の後ろで、清香がムンクの叫びのように両手で頬を押さえていた。 「いくらでも甘えろですって、ええ? 蛇の頭領のセリフとは思えない。もう完全に骨抜きにされてるんじゃないの、ええ、ナニコレ、マボロシ?」 「何を大げさな」  清香の揶揄に溜息をつき、ぐったりしている姫をソファに横たえる。 「そんなことより、この子を診てくれないか」 「そんなことよりって、ねぇ、分かっているの? この子は精神干渉の力を使うのよ。その様子じゃぁ冬九、じゃなくて冬十郎の心もすでに干渉を受けているんじゃ……」 「ああ、多少の影響は受けていると思うが……」  清香が思い切り眉をしかめる。 「多少の影響?」 「ああ、多少の……」  言いかけてハッとした。  違う、多少どころではない。  まるで、お姫様に忠誠を誓う騎士のように、今日会ったばかりの子供の両手を握り『ずっと私が守る』と誓いを立ててしまった。  その境遇に同情した面はあるが、それだけではないとはっきり自覚できる。 「どうやら……かなり強い影響を受けているな」  素直に認めると、清香はますます顔を蒼くした。 「分かっているなら、もう関わらない方がいいわね。警察に届けるか、しかるべき施設に預けるか」 「それはできない」 「どうしてよ」 「人間にこの子は守り切れない。おそらく一日ともたずにまたさらわれるだろう」  「さらわれる?」 「この子は今日、たった数時間のうちに二回も誘拐されかけた。おそらく力の制御がうまく出来ていないせいだ」  私は姫の細い体を見下ろした。  誰かに庇護されないと、あっという間に死んでしまいそうな弱い生き物。  清香もつられたように姫を見下ろした。 「それは……それは確かにかわいそうだけど、蛇の一族の当代頭領である冬十郎が、わざわざそんな厄介なものを引き受けなくてもいいんじゃない?」 「ずっと守るとこの子に約束した」 「そうだけど、それはこの子の力で言わされたようなものじゃ……」  私は姫の頬に触れた。  柔らかい肌だが、少し荒れている。  きっと痩せた体も、傷んだ髪も、次々と『親』が変わっていく異常な生活のせいだろう。 「姫は後どれくらい生きると思う?」
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