11 匂い

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11 匂い

 目が覚めると見知らぬ天井が見えた。  それはよくあることなので、特に気にもならない。  ぼんやりする頭で考える。  今の『親』はどんな奴で、今のわたしの名前は何だったか。  やんちゃな子か、優等生か、儚げな令嬢か、どういう振る舞いを求められているのか。  カーテンが閉まったままの薄暗い室内はしんとして、甘い匂いに満ちている。  深くゆっくり呼吸して、その匂いを肺に取り込む。  伸びをして少し首を動かしてみて、ドキリとした。  きれいな男の人が横に寝ていた。 「冬十郎……」  そうだ。  今、わたしには『親』はいない。  さらわれてここにいるんじゃなくて、保護されて冬十郎の家にいるんだ。  降り積もっていた雪が解けるように、ふわぁっと一気に暖かくなった気がした。  ベッドはすごく大きかったので、冬十郎が少し遠かった。  にじり寄るように近づいてみる。  規則正しい寝息が聞こえてきた。  長いまつげや微笑むような唇をじっくり観察していると、顎の先にぽわぽわと髭が生えかけているのに気付いた。 「わぁ……」  不思議な感じがした。  昨日は陶器みたいだと思った顔も、今はちゃんと生きている男の人に見える。  触ってみたい……。ちょっとそう思ったけれど、顔を触ると起こしそうなので、やめておいた。  代わりに長い黒髪の先にそっと触れてみた。艶やかな黒髪は滑るようにつるつるしていて、少しひんやりとしていた。   さらににじり寄り、その肩に頭をくっつける。額をつけているだけでも、そこから感じる体温が嬉しくて、すごく安心して、またうとうとと眠くなってくる。  冬十郎のいい匂いを吸い込み、規則正しい寝息をすぐそばに聞きながら、わたしはもう一度眠りについた。
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