11 匂い

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 玄関のそばにトイレと浴室と洗面所があった。  リビングの奥にも、トイレと浴室と洗面所がもう一つずつあるらしい。 「姫はこちらを使いなさい。奥のを私が使おう」  脱衣所にはふかふかのバスタオルと、セーターや下着などの衣類が用意してあった。 「昨日ここへ来た女の人を覚えているか」  ドキッとした。  わたしを指差して、『タチの悪いもの』と言った女だ。  冬十郎に向かって、わたしから離れろと叫んでいた……。 「そんな不安そうな顔をしなくてもいい。あの人は加賀見清香といって、私の叔母で、医者でもある。君の手と……首の火傷と、それと右足首の、傷の治療もしてくれた」 「足……?」  手の傷と首の火傷は覚えていたが、足は何だっただろうか。 「ロープの跡がな、少し」  と、わたしの足を見下ろす目が悲しそうに瞬く。 「ああ……」  コブトリがわたしの足をロープで縛ったことを忘れていた。  冬十郎はまたわたしを哀れでかわいそうだと思ったんだろう……。 「この服も、叔母上が昨日の夜に急ぎ買ってきてくれた。出掛けるのにパジャマのままでは困るだろうと」  わたしは置いてある服を見て、次に自分の右手と足首を見下ろした。正方形の白い絆創膏が貼ってあって、網のようなものがかぶせてある。 「本当はとても優しい人だ。怖がらなくていい」  わたしにとって、あの女が優しくても、優しくなくても、あまり関心が無かった。  冬十郎から離れろなどと、もう言わないでくれればそれで良かった。  ただ、冬十郎があの女を気にしているのなら、受け入れるふりくらいはしなくちゃいけないだろう。  今まで、色々な親の望む色々な子供を演じてきた。  これからは、哀れでかわいそうな子供を演じて、冬十郎に優しくしてもらうのだから。 「分かりました」  わたしは、素直にこくりとうなずいた。  冬十郎がほっとしたように微笑む。  そのきれいな瞳をじっと見つめる。  冬十郎はちょっとまぶしそうに目を細めて、じゃあ後でと言って出て行った。
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