12 好きなもの

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12 好きなもの

 リビングに入るとみそ汁の香りがした。  冬十郎がわたしの手を引いて螺旋階段の向こう側へと歩いていく。  広いと思っていた部屋がさらに奥にも続いていたことに驚きながら進むと、そこはダイニングになっていた。  カウンターがあって、奥にキッチンも見える。 「おはようございます、ご当代様、お嬢様」  ワイシャツの上にエプロンをつけた3号が丁寧にお辞儀をしてきた。 「おはよう、七瀬」 「おはよう……ございます」  色んな名前を付けられたけれど、お嬢様という呼ばれ方は初めてだ。  3号は昨夜のあの女や2号のようにわたしを警戒する様子はなく、穏やかな目でわたしを見てくる。 「どうぞお座りください」  椅子が八つもある大きなテーブルがあり、わたしはどこに座ればいいのか迷った。  確か、一番偉い人が端に座るはず……。  冬十郎を見上げると、優しく笑って「隣に座ろうか」と言った。  右側の真ん中に冬十郎が座り、3号がすっとその隣の椅子を引いたのでそこに座った。 「和食で大丈夫か? もしパンがいいなら……」 「好き嫌いはありません。出されたものを何でも食べます」 「……そうだったな」 「はい」  冬十郎は何かわたしに言いたそうだったけど、 「それはようございました。好き嫌いのない子は健康に育ちます」  と、3号が嬉しそうに言ったので、言葉を飲み込んだようだった。  3号のほかに知らない人が二人出てきて、テーブルに食器を並べていく。  ご飯にみそ汁に焼き魚に卵焼きにお浸しに煮物、香の物……かなりの品数が出てきたが、少量ずつなので何とか食べられそうだ。 「昨日は夕飯を食べられなかったから、空腹だろう」  冬十郎が落ちてくるわたしの髪を耳にかけてくれながら言った。 「ご飯を食べ損ねるのはよくあることなので平気です」 「え」  冬十郎だけでなく、他の人達もわたしを振り返った。
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