12 好きなもの

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「よくあるのか?」 「はい。特にこの頃は、一日に何度も『親』が変わることがあったので、タイミングが悪いとご飯の時間を逃してしまって……。そういえば昨日も、昼前に小太りの男の人にさらわれて、そのすぐ後に金髪のあの嫌な男に連れ出されたので、朝御飯しか食べていなくて……」  言葉に詰まったような冬十郎の顔を見て、またわたしをかわいそうだと思っているのが分かった。  わざわざ同情を誘う演技なんかしなくても、わたしは元からかわいそうな子供だったらしい。  冬十郎はわたしの頭を撫でて、「食べなさい」と優しく言った。  冬十郎に同情されるのは、悪くないと思う。  最初から優しかった冬十郎が、さらに優しくなっていくから。  でも、せっかくのきれいな顔が沈んでしまうのは、なんだかもったいないと思った。  冬十郎は笑っている方がずっといいのに。 「おいしそうです。い、いただきまーす」  ちょっと棒読みに挨拶して、わたしは卵焼きを口に入れた。 「おいしいです」  わざとらしいとは思いつつ、にっこり笑って見せると、冬十郎がほっとしたように笑い返してくれた。 「ゆっくり噛んで食べなさい」 「はい、分かりました」  冬十郎は優雅にのんびり箸を進める。  わたしは残さないように一生懸命もぐもぐと食べる。  時折、冬十郎が話しかけてくる。 「夕飯に何か食べたいものがあるか」 「……ええと……分かりません」 「そうか……」 「今日はどんな服を買おうか」 「……え、その……分かりません」 「そうか……」 「女の子だし、アクセサリーやらぬいぐるみやら、欲しくはないか」 「…………えっと……分かりません」 「そうか……」  何を聞かれても、同じことしか言えなくて、次第に冬十郎の顔も曇っていった。
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