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「よくあるのか?」
「はい。特にこの頃は、一日に何度も『親』が変わることがあったので、タイミングが悪いとご飯の時間を逃してしまって……。そういえば昨日も、昼前に小太りの男の人にさらわれて、そのすぐ後に金髪のあの嫌な男に連れ出されたので、朝御飯しか食べていなくて……」
言葉に詰まったような冬十郎の顔を見て、またわたしをかわいそうだと思っているのが分かった。
わざわざ同情を誘う演技なんかしなくても、わたしは元からかわいそうな子供だったらしい。
冬十郎はわたしの頭を撫でて、「食べなさい」と優しく言った。
冬十郎に同情されるのは、悪くないと思う。
最初から優しかった冬十郎が、さらに優しくなっていくから。
でも、せっかくのきれいな顔が沈んでしまうのは、なんだかもったいないと思った。
冬十郎は笑っている方がずっといいのに。
「おいしそうです。い、いただきまーす」
ちょっと棒読みに挨拶して、わたしは卵焼きを口に入れた。
「おいしいです」
わざとらしいとは思いつつ、にっこり笑って見せると、冬十郎がほっとしたように笑い返してくれた。
「ゆっくり噛んで食べなさい」
「はい、分かりました」
冬十郎は優雅にのんびり箸を進める。
わたしは残さないように一生懸命もぐもぐと食べる。
時折、冬十郎が話しかけてくる。
「夕飯に何か食べたいものがあるか」
「……ええと……分かりません」
「そうか……」
「今日はどんな服を買おうか」
「……え、その……分かりません」
「そうか……」
「女の子だし、アクセサリーやらぬいぐるみやら、欲しくはないか」
「…………えっと……分かりません」
「そうか……」
何を聞かれても、同じことしか言えなくて、次第に冬十郎の顔も曇っていった。
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