13 ざわめき

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「だからきっと、わたしから離れれば冬十郎様も……」  言いかけた小さな唇に、とっさに指を当てる。  姫が言葉を止めた。 「私は忘れない」  姫の目を見る。  姫の目が私を見つめ返す。  一際強い眩暈がした。  これは姫の精神干渉の力か、私の感情の高揚ゆえか。 「絶対に忘れない。必ず姫を探し出す」  熱を含んだ黒い瞳から、目を離せない。 「わたしが、どんなに離れてしまっても……?」 「地の果てまでも追い求め、必ずこの手に取り戻してみせる」   口に出してしまってから、怖いことを言ってしまったと気付く。  姫の瞳がさらに湿度を増して私を見る。 「わたしを連れ去る人が、どんなに強くても……?」 「ああ。ありとあらゆる手を使っても、必ずや奪い返して見せよう」 今までの私が口にしそうにないセリフが、零れるように口をついて出た。 姫が飛びつくようにして私の首に抱きついてきた。 「冬十郎様……!」  感極まったような声音で呼ばれ、涙が出そうになる。 「姫…………」  その背中に両腕を回して強く抱きしめる。 「私の、姫……」   髪に鼻をうずめて、その首筋に唇を押し付ける。  私は、何をやっている?  ……ああ……このまま押し倒してしまいたい……  ダメだ、いけない。  安心させるための柔らかな抱擁とは違う。  ……ああでも……もっと、もっと触りたい……  ……服を剥がして……その肌に直接触れたい……  ダメだ、いけない、保護者の域を超えている。  ……でも……まだ離したくない……  ……もう少しだけ、このまま…… 「あら、朝から熱烈ね」  すぐ後ろから声をかけられて、私と姫の体がビクッと跳ねた。 「叔母上」  冷水をかけられたかのように熱が冷める。  私はそっと姫から体を離した。
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