14 清香

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14 清香

 濃い化粧をして長い髪を派手に巻いた清香が、こちらを冷たい目で見下ろしていた。  素顔では十代に見られてしまうといって、最近はいつもこんな出で立ちだ。 「おはよう。お邪魔だったかしら?」 「いや……」  邪魔だったのか、助け舟だったのか、私にもよく分からない。  大きく息を吸って、吐く。  私は話題を変えることにした。 「ここでは、そんな派手な格好をしなくてもよかろうに」 「この後、男と会うのよ。そのまえ、に……え? え? ちょっ」  よろめくように清香が二、三歩後ろへ下がった。 「ええ? うそ。まだ警戒心全開なの?」  と、両手で透明な壁を触るような仕草をする。 「あーこれ、なんだっけ? 昨日も思ったけど、アニメのなんとかフィールドみたいね」  清香が苦笑している。  アニメは見ないので、私にはよく分からない。  姫の方を見ると、体を固くして清香を睨んでいる。 「姫、今朝話しただろう。この人は私の叔母で、姫の敵ではない」 「どうかな、敵でないとは言い切れないかも」 「は? 叔母上何を」  せっかく安心させようとしているのに、清香はわざとらしく不敵な笑みを浮かべた。 「いいからこの子と話をさせて」  2メートル先の壁の向こうで、姫をぎろりと睨み返す。 「この際はっきりさせておこうじゃないの」  と、芝居がかった仕草で腕組みして仁王立ちする。 「いい? 冬十郎はね、私の大事な大事な甥っ子なの。お互い子供の頃から知っているし、幼馴染みたいな、姉弟みたいなものなのよ。だからもし、あなたが冬十郎を傷つけたりしたら、ただじゃ置かない。八つ裂きにして火あぶりに……」 「叔母上、我らは何をされても傷一つ……」 「体の傷じゃないわ、心の傷よ」 「わたし、冬十郎様にひどいことなんてしない!」  姫が身を乗り出すようにして大きな声を上げた。 「あらそう?」 「そうです! だって、冬十郎様は笑っている顔が一番きれいだから!」 「……え」 「……は」  急に、かぁっと頬が熱くなった。  まるで口説き文句のようなことを、少女に言われてしまった。  清香が口を覆ってぷるぷると震え出す。 「なにそれ、すっごいイケメンゼリフ……!」  姫がきょとんとして私と清香を見比べた。 「あの、本当です。冬十郎様は笑うと誰よりきれいです」 「そうね、私もそう思う。冬十郎は笑顔がきれいだもんね」 「叔母上っ」 「あはは、冬十郎、耳まで赤いわよ」  
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