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「どうした、頭痛か」
「いや……」
「まぁ、あんたが病に罹るわけがないか」
「うむ、先程から妙な感じがしてな」
「妙とは」
「何というか……何かに呼ばれているような」
「ほう、そいつはあんたを冬十郎と呼ぶのか、それとも冬九朗か」
「いや、名を呼ばれるのとは違う。テレパシーのように声が聞こえるわけではないのだ。うまく言えぬが、こう、気持ちが引っ張られる感じだ。あっちの方から」
と、指さす方には火葬場がある。
恭介が嫌そうな顔をする。
「誰が呼ぶのだ。身代わりにされた男か」
「いや、別に私が殺したわけでなし……。身元不明の遺体を供養してやっただけだ。ついでに利用させてもらったわけだが……」
二人、顔を見合わせて苦笑いする。
「それに、火葬場を通り越して、もっとずっと遠くから呼ばれている気がするのだ。恭介、お前は私より顔が広いだろう。そういう力を持つ輩に心当たりはあるか」
恭介は顎を撫で、少し考えたようだが、すぐに首を振った。
「無いな。思念を飛ばすとなると、精神に干渉するような力なんだろうが……。そんな力は最近じゃ珍しいからな」
「そうか」
私も恭介も人間ではない。
だが、平安の昔から人間とはうまく共存してきた。
私の一族は単に年を取らないだけ、恭介のところはやたら力が強いだけで、もともと平和的で穏やかな種族だ。
「冬九……じゃなかった、冬十郎、分からないものは放っておけ。迂闊に近寄らない方が良いぞ」
「……ふむ、そうだな」
恭介の意見には全面的に同意する。
同意するが……。
どのような者が私を呼ぶのだろう。
そしてなぜ、私を呼ぶのだろう。
私はもう一度、その方角を振り返った。
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