14 清香

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 ひとしきりケタケタと笑うと、清香は息を吐いた。 「なーんか毒気抜かれちゃったわ。姫ちゃん、タチの悪い化け物って言ったのは、まぁ本当のことだけど、一応謝るわ」  まるで喧嘩を売っているような謝り方だが、姫は許したらしい。  周囲の緊迫した空気が一瞬で変わったのが分かった。 「あ、壁が消えた……。ありがとね、姫ちゃん」 「あ、はい」  姫のはにかむような表情で理解した。 『姫ちゃん』と呼ばれたのが嬉しいらしい。 「とりあえず出掛ける前に、傷を見せて頂戴」  ソファの前にかがんで、清香が姫の手を取った。 「もしかしてお風呂入った? 取れかかっているから、新しいものに替えるわね」 「ありがとう……えっと、おばさん」  清香が目を丸くする。  私が叔母上というのを聞いてそう呼んだのだろうが、二十代にしか見えない清香はそう呼ばれたのに驚いたようだ。  だが、少し間を置いて意味を理解したのかぷっと噴き出した。 「あはは。清香よ、姫ちゃん。私は清香っていうの」 「はい、清香様」 「あ、様とかつけなくていいわ」 「はい、清香さん」 「うん、よろしくね、姫ちゃん」  傷の具合を見ながら、清香が手早く治療していく。  まだ生々しい傷が目に入る。  普通の人間の体はひどくもろい。簡単に怪我をするし、なかなか治らない。百年も経たずに死んでしまう。  我ら蛇の一族も、もちろん不死ではない。死のうと思えばいつでも死ねる。だが死のうと思わなければ、いつまででも生きてゆける。  姫が寿命を終えた後もまた、いつまででも……。  また、胸の奥がざわざわしてくる。 「ねぇ冬十郎、関係ないこと一つ言っていい?」  清香の声に思考が遮られ、私はハッと顔を上げた。 「何か言ったか」 「うん。見た目が『冬十郎25歳』なのに、しゃべり方が『冬九朗72歳』のままってのは、どうなのよ。違和感半端ないんだけど」 「しかし、急に若者らしく話せと言われてもな」 「まぁ、あなたは冬八郎の時も冬九朗の時も、ずーっとそのまま通していたものねぇ」 「叔母上はすっかり若者に馴染んでいるようだ」 「まぁね、医学生やるのも五回目だから」  老いない体のことを、清香は姫に隠すつもりはないらしい。  姫は意味の分からない会話を不思議そうに聞いているだけで、何も質問してこなかった。  いずれきちんと説明せねばなるまいが、自分が異形だと告げるには少し躊躇いがある。  怖がらせたくはないし、怯える顔を見たくはない。  清香が、自分が人間でないことを忘れたくなると言った心情が、少し分かった。
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